フェスが広げてきた社会への環境ムーブメント

文:南兵衛@鈴木幸一(アースガーデン) 写真:sumi☆photo
元々、フェスって、当たり前に「環境教育」的な場なのです
この特集に「フェス!? 浮かれた若者たちが大音響で盛り上がっているのに環境教育?」と思った方、それは間違いです。断言します(笑)。
元々、フェスって、当たり前に「環境教育」的な場なのです。きっと皆さんは、1969年アメリカでの「ウッドストック・フェスティバル(Woodstock Music and Art Festival)」のことは知っていて、ちょっと目に浮かぶビジュアルもあるのではないでしょうか? 大空の下でステージに向かって何万人もが集まり、その回りには広大な緑の丘、自由でカラフルなファッションの若者たちがキャンプして泥まみれになっている姿。60年代から70年代の音楽とカルチャー、そしてライフスタイルのアイコンとして、大きな影響を世界に広げてきたそのイメージに、何より体験そのものを重んじる「環境教育」の入口を感じてしまうのは僕だけでしょうか?

日本の野外フェスを代表する「フジロック・フェスティバル」には、今年も4日間で10万人以上が集まり盛り上がりました。会場の一角では、同じ新潟県在住の環境教育家として視察に来た高野孝子さんが、飛び入りでトークプログラムを開く一幕も。
野鳥の会の長靴もフェスでブレイクしました!
日本を代表する「フジロック・フェスティバル」などの多くの音楽フェスが、ウッドストックからのダイレクトな影響の元にあります。だから毎年のフジロックでは1万人以上の若者たちがキャンプインします。その他でも北海道「ライジングサン」、仙台「アラバキ」、静岡「頂」、山口「ワイルドバンチ」など、各地域の1万人から時に3万人以上を動員する主要な音楽フェスでもキャンプインがつきものです。そしてそこには少なからず、周辺の自然と環境への配慮があり、その地域のリソースと密接なワークショップなどのプログラムも展開されています。
アウトドア業界では、2000年代のフェスブームの始まりと広がりが、雨具やシューズなどの購買層を広げる大きなビジネスチャンスだったと言われていますが、環境教育に近い世界でも「日本野鳥の会」のオリジナル長靴が、その持ち運びの便利さで多くの若者が愛用する、フェスの定番となったは有名な話です。
フジロックの会場では毎年、夕立のゴロッと音がした後、何千人もが一斉にカラフルな雨具を着始める姿が見られます。この姿を見る度に僕は、こういう体験を多くの人にしてもらうだけでもこの場づくりの意味がある、と思ってしまうのです。
エコロジーや自然体験プログラム、フェスではとっくに当たり前です
そして沢山の人々と大きな音でライブを楽しみたいからこそ結果的に、人の少ない自然の中での開催を選んでいる、ということも環境教育に近づく要素です。500人から5千人程度のフェスは今や数えきれません。小規模なフェスほどワークショップや展示、時にはステージプログラムももちろん、会場の地域と環境を活かした自然体験プログラム、エコロジーや街おこしの要素を盛り込むことが当たり前になってきています。
静岡「頂」フェスは1万人を超える規模ながら、会場の発電機を全てバイオディーゼルでまかない、その燃料は街の飲食店ネットワークとお客さんが持ち込むリサイクル廃油です。群馬県水上「ニューアコースティックキャンプ」はライブをアコースティック中心で組み立て、ワークショップも豊富。中心となるアーティスト「OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND」メンバーが東北復興支援に熱心で、東北からのブースも当たり前に並びます。私たちアースガーデンが主催する「Natural High!」(山梨県道志村)は毎年ライブより自然体験ワークショップのほうが多いぐらいですが(笑)、それでもコンスタントに1000人規模の参加者を集めています。これまでのゲストもC.W.ニコル、加藤登紀子、文化人類学者 中沢新一、明治学院大学 辻信一、本誌の発行人でもあるJEEF川嶋直 理事長などなど、参加者の皆さんには、ちょっと深い体験ができるフェスとして人気です。

加藤登紀子さんは毎年の常連出演者。高野孝子さんとの出会いにフェスの可能性で話しが弾みました。

自然エネルギー100%で運営するアバロン・フィールド入口。フェスではアートも大きな要素です。

会場では苗場で間伐された多様な木材を使った企画など多様なワークショップが展開されていました。
ボランティア体験を通して多くのエコ系人材がフェスで育ちました
大規模イベントとしてのフェスでは、初期から、ボランティアの存在は当たり前でした。特にフジロックでは「世界一クリーンなフェス」を合い言葉に、多い時には300人以上のボランティアが会場のエコステーションで分別ナビゲートなどをしてきました。その活動をオーガナイズしてきたiPledge(旧アシード)は、活動のリーダー育成トレーニングなどにより、エコ系人材を企業や行政に数多く輩出してきたNGO組織として、多くの人に高く評価されています。
こうしてお伝えしてきたとおり、元々フェスはその成り立ちから「環境教育」的な場であり、時代の中でエコロジーや社会性とも密接な場です。ここで育っているその可能性が決して小さくはないことに、気がついていないのは環境教育の関係者ばかりなのかもしれません。
これを環境教育の世界が活かさなかったら、ちょっと犯罪的だなーと、常々思うこの数年なのです(笑)
2016年9、10月号
- 日本モデルの環境教育を目指して!!(スリランカ)
- 新たな取り組みで見えてきたこと
- 村には祭りが必要だ
- 合宿:世界谷地原生花園散策と伝統的な藍染め体験
- 企業の環境マネジメントの目標を全社で考えるお手伝い
- 考えるっておもしろいかも!?第6回 「違う」ということ
- パート2:バングラデシュ現地からの環境レポート第2回 〜地球温暖化編〜
- ウエイスト・ピッカーからのメッセージ
- 聴いて 美味しくて 楽しいだけじゃない!インタプリターから見たフェスの魅力と可能性
- フェスが広げてきた社会への環境ムーブメント
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