パート3:開発途上地域(アジア)の地域デザイン第6回 〜拡大する都市と疲弊する農村部での地域づくりの展望〜
- 2018/06/19
- カテゴリー:国際事業コラム

写真:都市部の住民参加型廃棄物管理ワークショップ(ベトナム)
文:佐藤秀樹(国際事業部チーフコンサルタント)
開発途上地域の農村部では、主に農畜林水産業の生産により住民の暮らしが営まれていますが、彼らは経済的には決して恵まれていません。今後、収入の多い仕事を求めて、農村から都市への人口移動が続くことが予測されています。
拡大する 都市部
都市化がさらに進むことで、十分な住居空間が確保できない、貧富の格差拡大、公衆衛生の悪化や高齢化による福祉環境の未整備等、課題がより鮮明になってきます。
このような複雑化する問題に対処するためには、様々な住民層が連携し、地域の課題解決学習の場の提供や、それを通じて能力向上を目指した継続的な取組みが重要です。
例えば
都市部での環境問題の一つである適切な廃棄物管理の改善については、特定の関係者だけで進めるのではなく、地域の貧困者や社会的脆弱者(高齢者、障がい者、女性、子ども)をも巻込んだワークショップ等を提供し、社会的包摂を意識した上での地域力を高める取組みが必要です。
また、多くの開発途上地域では、日本同様に高齢化社会の到来が見込まれているため、福祉・保健・医療等の高齢者の視点に配慮した地域社会を創出していくことが求められます。
住みやすく居心地の良いアメニティ空間を、都市部で形成していくためには、行政、企業、教育機関、社会的弱者も含めた市民等が相互学習を通じ、地域を支える自治組織を形成する。また、コーディネーターを養成し、「都市の社会的包摂・社会参加促進による地域づくり」を進めていくことが必要です。
疲弊する 農村部
今後、収入の多い仕事や、快適な生活環境を求めて、住民の都市部への流出が加速化し、農村部での少子高齢化による担い手不足や耕作放棄地、荒廃地増加につながる可能性があります。それに伴って、農畜林水産業が衰退し、農村部が疲弊していくかもしれません。
持続的な農村地域の活性化を進めるためには、個々人の利益を追求するだけでなく、住民たちが一丸となって地域の価値を再考・発掘して、適切な地域資源管理の下、人・もの・お金・情報が各村落の社会経済の中で循環する仕組みをつくることが大切です。

稲作(バングラデシュ)
例えば
農畜林水産物の生産(第一次産業)、加工(第二次産業)、流通・販売(第三次産業)が連携した六次産業化により、それぞれが互いに主体性を持ちながら協働し、地域特産品の商品化やブランド化を図り、多角的な視点に立った地域づくりを進めることが農村活性化につながると考えられます。
また、高齢者や若い世代のニーズに配慮した上で、医福食農連携(※1)や若者の都市農村交流等が農村振興を図っていく一つのアプローチになる可能性もあります。
※1: 医福食農連携とは、機能性食品や介護食品の開発・普及、薬用作物の国内生産拡大。障害者の就労支援など、医療・福祉分野と食料・農業分野との連携の取組を指します。農林水産省ホームページ
このように途上国における農村部での地域づくりは、農村関係者が協働して、地域の持つ固有の伝統・文化・自然等に関する価値を発掘・創造していく「農村協働型の価値創出地域づくり」を進めていくことが必要です。
日本での取り組み
日本の各地域でも、商店街再生や農工商連携による様々な取組みが行われています。地域づくりへのアプローチ方法として次のことがよく言われます。
- マルチステイクホルダーの連携
- 地域をサポートする調整役の育成
- ワークショップや研修を通じた能力向上
- 都市と農村の交流
- 地域の価値を見いだした商品開発・マーケティング
日本での地域おこしの経験・教訓が、今後の開発途上国の地域づくりに活かすことのできる、多くの示唆を含んでいると言えるでしょう。そして、アジア諸国が相互協力して、国連の定めるSDGsの視点をとりいれながら、都市と農村部での地域づくりを進めていくことが求められます。
ワークシート
日本では、大都市への人口集中を緩和し地方の人口減少をくいとめ、日本全体の活性化を促していく「地方創生」という言葉を耳にするかと思います。私たちが、日本の地方をどのように応援していけば良いか、下記ウエブサイト等を参考に考えてみて下さい。様々な地方創生の事例が掲載され、今後、私たちの暮らし方を考える上でとても参考になります。
地方創生の例) ふるさと納税、農村交流ツアー参加・・・
画像をクリックすると誌面のPDFがダウンロードできます。
2018年5、6月号
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- パート3:開発途上地域(アジア)の地域デザイン第6回 〜拡大する都市と疲弊する農村部での地域づくりの展望〜
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