地域に根ざした農業を1からはじめる
〜ヨシオカ農園 吉岡 龍一さんの場合〜
- 2015/09/07
- カテゴリー:「未来を豊かに」を仕事にする, 特集

文:吉岡 龍一(ヨシオカ農園)
こんなお仕事してます!
現在、千葉県の柏市で新規就農し、農業をしています。親が農家ではないので、自分で土地を探し貸していただいた土地で、地域の農業のやり方に習い、日々畑を耕しています。
また、畑のある集落の農家とともに、増え続けてしまっている耕作放棄地を解消し、体験農園として運営し、市民が農に触れ合える場を作っています。
さらに、JR柏駅前エリアでまちづくり活動をしている、合同会社EDGE HAUSのメンバーとして、コミュニティカフェとコワーキングスペースの運営もしています。
日本人として日本を見つめなおす
もともとは国際協力の分野に興味があり、大学でもその分野の研究をしていました。大学3年の時に、南インドの農村集落に2ヶ月滞在し、治水整備をしたりその他の活動をする機会がありました。その集落での彼らの生活は、テレビもケータイもない、日本人の感覚から言えば原始的なものでしたが、毎日が人間同士のコミュニケーションにあふれ、とても楽しそうでした。ところが、現地の人はとても日本人をリスペクトしていて、日本に憧れを持っていて、僕は実際本質的に豊かな暮らしをしているのはどっちかなと、自分の中でとてもむしゃくしゃしました。その時に、日本→海外という風なものの見方をするのではなく、日本人として日本を見つめ直さなくては、と思ったのがそもそもの今の自分に至る全てのキッカケです。
日本に帰ってきてから、日本人として日本が大切にしてきた貴重な価値観はなんだろうと考え、自分の中で辿り着いたのが「里山」という言葉でした。当時はまだ里山資本主義も世に出る前でしたが、自分が住んでいた場所に小さな里山があり、その里山の素晴らしさと、住民がその保護活動をしている姿を見ていたので、自分の中でその単語がすんなり体に入りました。
そして、学生時代に里山や環境をテーマに活動しようと考え、(公財)損保ジャパン日本興亜環境財団が運営するCSOラーニング制度を利用して、茨城県で環境保全活動を地域と共に動かしているNPO法人アサザ基金で約1年間のインターンシップ活動をしました。アサザ基金では、中学生たちと、耕作放棄されてしまった田んぼを再びお米を育てることのできる田んぼに復活させ、そこでもち米を育て、せんべいにするプロジェクトをスタートさせました。彼らには、地域を巻き込みたいという思いがあったので、せんべいに加工する作業を、障がいをもつ人が働いている福祉作業所に依頼するなど、自分たちで全てやるのではなく、地域の人と協働することで、地域のプロジェクトに作り上げました。人と地域をつなげ、ムーブメントをおこし仕事を作るということを学びました。その後の自分の働き方も、自分の仕事は自分で作れると思えたのも、このプロジェクトをスタートできた経験があるからです。
大学卒業後は、地元の千葉県柏市でこのような活動をしようと思ったのですが、現在農業をしている集落エリアは、より保守的な場所なので、昔からその地域で暮らしてきた、いわゆる農家でないと地域の中での活動ができないように感じました。大学時代はどちらかというとコトを作ることが多く、モノを作れる人になりたかったので、農業をやろうと決意しました。決意した理由には、確信的な何かというのは実はあまりなくて、やったことないからやってみたいというような軽い気持ちも実はありました。
知り合いも情報もない中丁稚奉公からスタート
ただ、農家になって農業をやるというにも、知り合いには誰もいませんでしたし、ネットでの情報も全くなかったので、とりあえず市役所の農政課に相談をしに行きました。(最近は農業も盛り上がってきて農業生産法人のスタッフとして農業に従事するというパターンもあり、農の雇用は増えつつあります。)
そこで柏市が運営する、新規就農者を育成する研修事業に出会い、その研修制度を利用して1年間、柏市の様々な農家の元で丁稚奉公のような形で農業研修を経験しました。一般的に農業研修は研修先で栽培している作物を完璧に覚えることが主な目的なので、長期に研修することが多いのですが、柏市では制度がそもそも短期であるのと、体験的な意味合いが強かったので、農業の勉強ができたわけでは全くありませんが、農家との知り合いやつながりはたくさんでき、いま農家がどのような現状にあって、地域が今後どうなるかを見ることができました。

体験農園での収穫祭
毎年、蕎麦を栽培し、手打ちの蕎麦を作ります。
休みの日に気分転換に土いじりしてみたいなぁ、田舎にどっぷり浸かって農業勉強してみたいなぁ、友達と一緒に楽しく畑体験してみたいぁ、という方はお気軽にご連絡下さい。
研修後には、何かコースが用意されてるわけでは全くないので、そこから自力で研修を続けさせてくれる農家を探したり、畑を借りたりして農業を続ける方法をそれぞれ探すしかありません。私の場合は、研修で知り合った米農家の人の米作りを手伝いながら、その農家から使っていない畑を借りて実験的に野菜を育てることをしました。
この1年間で自分なりの農業の感覚を掴み、次の年から、いまの農村集落に畑を借りることができて、本格的に営農をスタートさせました。そして今年の4月で、今の集落エリアに畑を借りて3年目になります。作物を作ることは基本的には1年に1回しか勉強できなく、生涯であと50回くらいしかきっと勉強できないので、毎年が試行錯誤で連続です。
今の集落では、野菜を栽培するだけでなく、地元の農家と耕作放棄されてしまった場所を畑に戻して、体験農園として市民に使ってもらう活動をしています。農家が管理しきれないから耕作放棄されてしまったわけで、畑を管理する人の幅を広げていくことで、畑を後世につなげていける人を増やせればという思いがあります。私が学生時代にアサザ基金で復田を経験した時にも感じたのですが、一度耕作放棄されてしまった田畑を元に戻すことは労力もお金もかかるとても大変なことなのです。

もちつき
筆者と同世代で、農や地域での暮らしの興味のある人が、作業を手伝ったり、地域ならではの体験を楽しみに、畑に遊びに来てくれます。
私が営農している集落は、現在約50軒ほどの農家がいますが、その中で私のような年齢の後継者がいる家は2、3軒ほどしかありません。後はすべて、後継者がいるが継ぐ予定がないか、後継者がいないかなのです。それが今の農村のリアルな現状で、先行きが明るいとは全く言えないと思います。それでも、よそ者が地域に入り、地域と一歩づつ歩み寄ることで、計画的に地域の農業を考える場や動きを作り出せればと考えています。
2015年7、8月号
- 地域に根ざした農業を1からはじめる
〜ヨシオカ農園 吉岡 龍一さんの場合〜 - 住民による自然資源の適切な利用を通した、生計向上と環境保全型農村を目指して
- 科学を伝え、市民と共に考える
〜科学館勤務 科学技術インタープリター 小川 達也さんの場合〜 - 美しい砂浜が美術館
〜NPO砂浜美術館理事長 村上 健太郎さんの場合〜 - いのちの営みを「ひとつのおさら」にのせて
〜カラーズジャパン株式会社 西村 和代さんの場合〜 - よい師匠に出会おう!
〜青木将幸ファシリテーター事務所 青木 将幸さんの場合〜 - アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 1
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