住民による自然資源の適切な利用を通した、生計向上と環境保全型農村を目指して
- 2015/08/26
- カテゴリー:バングラデシュ国における事業, 事業レポート

【事業名】バングラデシュ国スンダルバンス地域における漁師の持続的なマングローブ林の利用と生物多様性保全を通じた生計向上プロジェクト
【実施期間】2014年4月~2015年3月
【実施地】バングラデシュ人民共和国
スンダルバンス地域 クルナ管区
【助成金支援団体】経団連自然保護協議会(経団連自然保護基金)
【実施主体】バングラデシュ環境開発協会(BEDS)
【協力】JEEF
世界自然遺産とラムサール条約に登録されているスンダルバンス地域は世界最大のデルタ地帯とマングローブ林を形成しています。貴重なベンガルトラが生息しているほか、ヒョウ、イリエワニなどの野生動物や、野鳥など数多くの希少種及び絶滅危惧種が生息している自然環境の豊かな場所です。
本助成事業の対象地域は、スンダルバンス地域と対岸に位置する漁業が主産業の村落です。村では水、電気やガス等の基礎的なインフラが未整備で、地域住民は食事用の燃料としてマングローブ林等を過剰伐採するケースが後を絶たず、自然資源の適切な利用が課題です。また、雇用の選択は少なく、小学校を卒業せずに両親(漁師)の手伝いをすることや、小学校を卒業してもすぐ出稼ぎに行き、家計を支えているのが現状です。

このような背景から、当該村では、2014年4月から1年間に亘り、現地NGOであるバングラデシュ環境開発協会(以下、BEDS)が実施主体となり、漁師の持続的なマングローブ林の利用と生物多様性保全を通じた生計向上プロジェクトを実施してきました。住民が自然資源の適切な利用を図りながら、生活改善へ向けた取組みを促進することを目的としています。
2014年度は、「 1.協同組合の組織化」「 2.自然資源の適切な利用と生計向上を図るための教材開発」「 3.漁師世帯による能力向上研修」等を主に行いました。その活動結果をご報告します。
1.協同組合の組織化
本助成事業での対象者は、同村から75世帯(2人/世帯)の漁師家族を選抜しました。選抜に当たっては、女性が薪拾いや水汲み等、村落周辺での日常生活と密接な関わりを持っていることから、各世帯から必ず女性1名を選抜してもらうようにして、女性の意見も十分に反映できるようにしました。また、本プロジェクトに対する自立性や今後の持続性を踏まえて協同組合を結成し、住民自らが主導で進めていくための組織づくりを行いました。

対象コミュニティの様子
2.自然資源の適切な利用と生計向上を図るための教材開発
住民が地域の自然資源を適切に利用するためには、自然を守ることの意義をあらためて考え直すこと、そして生活向上に結び付けるためには、現地住民の意識改革が必要です。そのための第一歩として、住民の能力向上を図るためのツール(教材)開発を行いました。教材では、文字の読み書きができない住民が多いため、絵図を多く取り入れ、同地域の、マングローブ林の適切な維持管理、それに伴う生態系システムや食物連鎖への影響が十分に把握できる内容としました。また、漁師に人気のあるトランプを活用し、トランプにスンダルバンスを象徴する動植物の写真を貼付け、自然を守ることの大切さについてメッセージを伝える工夫を施しました。

開発したトランプ形式の教材
同地域は、住民の多くが農地を所有していない、ベンガル湾に面した低海抜という地理的条件と、低開発国という社会的条件によって、過去に度重なるサイクロン被害を受けてきた場所の一つです。最近では、塩害による被害が拡大したことや、土盛りをして建てられている家屋が浸水被害を受ける世帯が増加しています。そのため、教材の中では、廃棄処理された植物栽培のポット(鉢)を活用して、屋敷内の狭いスペースでも栽培でき、塩害にも対応できる栽培方法について取上げました。また、換金性の高いカニ養殖業の可能性に関する内容も盛込み、今後の市場での販売を目論んでいくことになりました。
3.漁師世帯による能力向上研修
75世帯を対象に、開発された教材を活用した本研修(7日間)とフォローアップ研修(2日間)が行われました。研修では、スンダルバンス地域と、その周辺を適切に利用するために政府が定めている規則の確認、マングローブ林の保全が地域の生態系に及ぼす影響や、我々の生活への恩恵について、活発な講義や意見交換が行われました。研修を通じて、住民は、スンダルバンスの自然環境を守ることの重要性について理解を深め、彼らの心に刻みこむことができました。

漁師世帯の研修会の様子
今後は、住民がこれまで習得した技能を活かし、マングローブ植林の適切な維持管理と植林場所での環境教育プログラムの実施、ポット(鉢)を利用した家庭菜園やカニ養殖等のパイロット事業を展開していきます。幸いにも、2014年度に続き、2015年4月~2016年3月の1年間に亘り、経団連自然保護基金の助成が決定しました。地域住民が適切に自然資源を利用しながら生計向上のための手段を増やし、将来的には環境保全型農村のモデルとしてバングラデシュの他地域のモデル村となれるように、本事業を進めていければと思っています。
文責:佐藤秀樹(JEEF職員)
2015年7、8月号
- 地域に根ざした農業を1からはじめる
〜ヨシオカ農園 吉岡 龍一さんの場合〜 - 住民による自然資源の適切な利用を通した、生計向上と環境保全型農村を目指して
- 科学を伝え、市民と共に考える
〜科学館勤務 科学技術インタープリター 小川 達也さんの場合〜 - 美しい砂浜が美術館
〜NPO砂浜美術館理事長 村上 健太郎さんの場合〜 - いのちの営みを「ひとつのおさら」にのせて
〜カラーズジャパン株式会社 西村 和代さんの場合〜 - よい師匠に出会おう!
〜青木将幸ファシリテーター事務所 青木 将幸さんの場合〜 - アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 1
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