文:田村 陽至(ブーランジェリー・ドリアン)
20代の頃は「自然や文化を守り、環境問題を解決したい!」と旅をしてきた筆者。しかし、「〜反対!〜を守れ!」と活動することに違和感を感じ、誰かや遠い場所に古さを求めるのをやめ、自らが現場で悩み葛藤し「古い方法で新しい時代をつくる」実践を始めた。それが、「捨てないパン屋」。さて、捨てないための方法はなんでしょう?
捨てないパン屋を作る為に、まずやるべきことは何でしょう? 新商品の開発? 新規顧客の開拓? そんな経営コンサルタントが言いそうなことは、全く的を射ていないたわごとなので無視しましょう!
そんなことより、パン屋だけでなく、その他の物づくり、サービス業、役所仕事に至るまで、日本中の働き方に早急に必要なことがあるのです。
本当の働き方改革
それは、徹底的に、「手を抜く」ことです。しかし、ただ手を抜いていたなら、お客さまから「ふざけるな!」と言われて、だれも買ってくれなくなりますよね。だから、手を抜いても許してもらえるような、「まっとうな言い訳」を作るのです。
うちのパン屋の例でいいますと、まず、自分が入手できる最高の材料を使います。例えば国内産有機栽培の小麦を使ったりします。天然酵母を使って発酵させたり、薪窯で焼くのも、それらも材料の一部と考えるからであります。
「材料はベストのものです! だから、その他の製法は手は抜かせてもらいますよ」とお客さまに言うのです。無駄を省いて質を高めるのです。お客さまは怒るどころか、喜んでくれます。
具体的にどう手を抜くかというと、焼くパンは具材は何も入ってない、1キロ〜2キロの大きな4種類のパンだけです。
普通の菓子パンを作る場合は、具材を作ったり、生地に混ぜたり、包んだりと大変です。分割も100グラムなど小さく切り分けると、手間も時間もかかります。
一方、大きくシンプルなパンは、とても楽です。生地を混ぜるのも、具がないのでシンプルで簡単。分割して丸める時も、1キロの大きさで丸めていけばいいので、あっという間です。
重要なことですが、手間=コスト=お客さまが買う値段 です。
粉の質をベストなものにした結果、材料代は2倍になりました。けれど、手を抜き手間をかけなければ、パンの値段は上げなくても大丈夫なのです。
大切なのは「手を抜くこと」
「手を抜くこと」を学んだのは、ウィーンのパン屋で研修した時でした。
「明日8時に来てね」と言われて行ったら、なんと、昼の12時過ぎには仕事が終わってしまったのです。たったの4時間労働。
そして、ここが重要なのですが、そうして作られたパンは、日本のどのパンよりも段違いに美味しかったのです!
ショックでした。時間をかけて、手間暇かければ、美味しくなると思っていたのに。
14時間、ときに16時間、彼らの何倍も働いているのに、パンの味は負けている。さらに、そのお店のお客さまは、質の良いパンを安く買えている。
僕らは何一つ勝っていない。完敗だったのです。情けなかったです。
だから日本に帰って自分の店で実験しました。それから4年間、製法も、売り方も、経理にいたるまで、「手を抜く」ことを試し続けました。
2015年秋から今日まで、毎日たくさんパンを焼いてきましたが、1つも捨てていないのは、そんな実験の結果なのです。
何度も言います。「手を抜く」ことが大事です。
無駄を省き質の高いものを
パン屋だけに限らず、特に日本人はやりすぎます。家電製品を例にあげてみても、丈夫に動けば良いものに、いらない性能を付け足したくなる。ファジーだったり、マイナスイオンだったり…
いやいや違う! シンプルでいいから、一生壊れない、電気代がかからない、そんなものをお客さまは求めているのです。
無駄を省き質の高いもの。そんなストレート直球勝負で商売すれば、お客さまも喜び、おのずと経営も潤うのです。
なぜならそれこそが、もともと日本が得意であった、「ものづくり」の本質だからです。そしてそれを取り戻せた時、働き方にも生き方にもゆとりが出るのです。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。