ブルーフラッグ認証の取得活動を通じた地域づくり
- 2017/10/10
- カテゴリー:海の環境問題と環境教育, 特集

文:米川 浩司(福井県高浜町産業振興課)
私たちの住む高浜町の海岸線に広がる美しい砂浜は、貝殻が細かく砕かれてできた砂で形成されているためとても白いことが特徴です。特に若狭和田ビーチでは、沖に点在する島や岩、若狭地方のシンボルである「青葉山」とそこに連なる山並みなどは、多くの方々を魅了し、古くから海水浴場として賑わい、観光地として維持管理されてきました。
しかし近年はレジャーの多様化や海水浴ニーズの衰えなどから、観光客が全盛期の1/6程度に減少、合わせて観光事業者も減少し、高齢化の一途をたどっています。これまで彼らが中心となって実施してきた海岸清掃や公衆トイレ等の施設管理が立ち行かなくなり、また、地域の活力も失われつつあります。
このため高浜町ではブルーフラッグ(※)の認証取得活動を通じて、行政や地域住民・事業者、町外の人や企業を巻き込み、将来にわたって持続可能な地域の発展を目指すことになりました。
※ブルーフラッグ
世界最大規模の環境NPO/NGOのひとつであるFEE(国際環境教育基金 本部:コペンハーゲン)が運営しており、1985年にフランスで誕生。主にヨーロッパに広がった後、南アフリカで取得されたのを契機に世界中に普及し、2017年現在、46か国4,413箇所で取得されている。

高浜町の全景。海と山に囲まれ、海岸線には約8Kmに渡り8つのビーチがある。
普及するブルーフラッグ認証
ブルーフラッグは、国際的に優れたビーチやマリーナを認証するプログラムです。認証基準は、大きく「環境教育と情報」「水質」「環境マネジメント」「安全性・サービス」の4つの分野から構成されます。これらの基準は、自然保護に関する「環境的側面」と共に、ビーチやマリーナが所在する地域の「経済的側面」についても配慮されており、結果的にビーチや地域の持続可能な発展を促進することを目指しています。
実際導入した国では、観光地のブランドの一つとして広く認知されるなど、経済面での影響力も大きいようです。
私たちも、これまでの認証取得活動を通じて感じましたが、知れば知るほどよく出来たプログラムであり、今後日本国内でも取得に名乗りを上げるビーチは増えていくと感じています。
ブルーフラッグ認証取得を目指す理由
海岸維持管理の意欲向上
海岸の維持管理については、多くの主体が様々な視点で関与し、そこには複雑な利害関係があります。そのため、例えば利用上のルールを決める際にも、皆の合意を得るのが困難となる場合があります。また、取り組みを継続していく上で、関係者の前向きな意思や意欲を維持しにくいという面があります。
ブルーフラッグの認証基準には、環境マネジメントやサービスの面で、詳細なチェック項目が列挙されているため、ビーチが目指すべき姿を共有し、具体的な合意形成をはかりやすくなります。また毎年の認証取得は、関係者が各自の役割を担う上で、共通のモチベーションになっています。
付加価値による経済振興
高浜町の最大の特徴であり、最も訴求力のある資源は、美しい海です。「大都市の近くにこんな綺麗な海があったのか」と驚かれる方も少なくありません。しかし、海の美しいまちは全国には沢山あり、他所との違いを端的に表現することは容易ではありません。
これに対して、何らかの客観的な指標は、アピールする上で有効です。この認証は既に多くの国や地域で普及している国際環境認証であり、それを、アジア(日本)で初めて取得できたということは、まちをPRする際の方向性を集約し、効果的に進めることができます。また今後、観光に限らず、地域発の商品やサービスに付加価値をつけることが出来ると期待されます。
環境教育
近年、ビーチの利用者のマナーは向上していると言われますが、同時に極端にマナーの悪い悪質な利用者も目立つようになっており、ビーチを維持管理するためのコストや手間を肥大させる要因として深刻な問題になっています。
また、日常的に美しいビーチを維持していくためには、海岸清掃など地域住民の力が欠かせません。しかし、多くの人が観光業に関わりがあった時代と比べると、今は海水浴客が減少し、住民の海に対する関心が薄まっている傾向がみられます。
環境教育は、ビーチに関する知識や体験が得られる機会を作るものであり、利用者や住民の自然に対する愛情や敬意を育成する場となります。将来にわたって継続的に環境を保全していくためには、その担い手や利用者となる人を育てることが、最も効果的であると考えられます。

誰もが安心して楽しめるビーチへ
「100年後もキレイな海を子どもたちへ」引き継ぐため、地域の多様な主体が協働で、かつ継続的に取り組むことにこそブルーフラッグの意義があります。決して派手ではない高浜らしいビーチカルチャーを築くため、海のまちの活性化への壮大な挑戦はまだまだ始まったばかりです。
2017年9、10月号
- JEEFはバードライフ・インターナショナル東京、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンとの共同事業として、「SATO YAMA UMIプロジェクト」を立ち上げました。
- 海辺の環境教育フォーラムと、その参加者による協働プロジェクト
- 正会員と職員で JEEFの将来を考える
- ごみ箱に捨てる習慣のない国で(ソロモン諸島)
- ブルーフラッグ認証の取得活動を通じた地域づくり
- パート3:開発途上地域(アジア)の地域デザイン第2回 〜自然の恵みの発掘 商品・ブランド化による 地域づくり!〜
- 目指せ! 日本一楽しいゴミ拾い!!〜 神奈川県江の島での12年間のゴミ拾い活動を通じて 〜
- ウエイスト・ピッカーの能力開発を通じた労働・生活の改善
- 考えるっておもしろいかも!? パート3:第4回なんで手を挙げるの?
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