伝統と自然が息づく国ブータン
- 2017/07/12
- カテゴリー:今年こそ、エコツアーに行こう! , 特集

文:松尾 茜(JEEF国際事業部 ブータン駐在員)
GNHとエコツーリズム
中国とインドに挟まれたヒマラヤの小国、ブータン王国は、発展の指針として「国民総幸福量(GNH)」の向上を目指す、ユニークな国として知られています。2016年現在、ブータンにとって、水力発電に次いで大きな外貨獲得手段となっているのが、観光産業(※1)。1974年に外客受入れを開始し、民主制に移行した2008年以降、本格的な観光開発が始まった際には、すでに国際社会でエコツーリズムの概念が定着していました。
伝統文化や自然環境の保全と、社会経済開発のバランスを、慎重にとりながら国づくりを進めたいブータン。エコツーリズムは、まさに最適なツールであるといえます。
※1:ブータン国税局の統計によると、2015年、水力発電による電力輸出高は約17.8千万ドル、国際観光による売上高は、約7.1千万ドル。
引用元:https://www.rma.org.bt/annualreporttp.jsp
地域活性化につながる環境保全への理解
ブータン各地でエコツーリズム開発が進む中、目に見える成果を出している事業のひとつが、JEEFとブータン王立自然保護協会(RSPN)が協働で行った、オグロヅルの越冬地でラムサール条約にも指定される湿地、ポブジカ谷のCBST事業(※2)です。
美しい湿地の景観と、希少なオグロヅルの飛来。それだけで観光客を惹きつける魅力を十分に持っているポブジカ谷では、ホテル建設などの開発が進行する中、地域住民が置き去りにされていました。
そこで、JICA(国際協力機構)草の根事業として、地域主体のエコツーリズムを始めたのが2011年。農家ホームステイの整備、ローカルガイドの育成、湿地を守りながら歩けるボードウォークの設置、ツル観察小屋の整備、オグロヅル祭の活性化などを行いました。
その結果、お客様が来ても恥ずかしくないように、ゴミを拾うようになった。」「ツーリズムにより収入が増えた。以前にも増して、オグロヅル保護の重要性がわかった。」など、地域の人々の環境に対する意識が、明確に向上したのです。
ブータンのエコツーリズムに参加した日本の高校生たちには、地元出身のローカルガイドと共に、農家ホームステイを楽しんでいただきました。帰国後の事後研修では、地域経済が活性化するようにと、「ヤクのミルクキャンディー」、「そば粉餃子てづくりキット」など、地元の素材を活かしたお土産品のアイディア出し。地域と外の世界が継続的に繋がるきっかけを与えてくれることも、エコツーリズムの大きな魅力のひとつです。
未来へのチャレンジ
今後のチャレンジは、大きく2つ。ひとつは、地域主体のエコツーリズム運営組織が、きちんと継続的に機能すること。もうひとつは、農業や畜産業などの地場産業とエコツーリズムを上手に結びつけて、総合的な地域活性化に繋げていくこと。
その担い手として期待されるのが、地元出身の若者たちです。彼らが都会の誘惑に惑わされることなく、地域の魅力を再認識し、エコツーリズムの立役者になってもらうためには、私たち日本人のような、外からの「応援団」の力が欠かせません。
未来のブータンにも、今のように美しい伝統と自然が息づき、若者からお年寄までが、訪れる観光客と共に、地域で活き活きと暮らせるように。ひとりでも多くの方に、「応援団」としてブータンのエコツーリズムを体験していただくことを、心よりお待ちしています。
2017年5、6月号
- 伝統と自然が息づく国ブータン
- SATOYAMA EXPERIENCEで体感 暮らしを旅するツアー(岐阜県 飛騨地方)
- 自然と共存する技と知恵を伝えるツーリズム(京都府 南丹市美山町)
- 利用者による環境保全のしくみづくり(北海道 大雪山国立公園)
- 普通の里地里山でとっておきのエコツアーを(埼玉県 飯能市)
- 第5回南アジア廃棄物管理国際会議「Waste Safe 2017」に参加してきました
- バングラデシュ全国で生物多様性保全のムーブメントを引き起こす!
- 世界はサステイナブルな観光へ
- 「自然から学ぶ」ことについて もう一度向き合う
- バングラデシュ国内での天然蜂蜜商品の販売促進を目指して
- poco a pocoそして環境教育は続く(エルサルバドル)
- パート2:バングラデシュ現地からの環境レポート第6回 〜SDGsの視点から環境問題解決へ向けて〜
カテゴリー
- worldexpress (13)
- 事業レポート (79)
- GEMS (2)
- JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ハにおける地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト (6)
- JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ポブジカにおける地域に根ざした持続可能な観光の開発 (6)
- NEC森の人づくり講座 (2)
- SAVE JAPANプロジェクト (1)
- インドネシア (6)
- カンボジアにおけるオオヅル及び生息地の保全に関する環境教育・普及啓発事業 (1)
- きのこたけのこ里山学校 (2)
- ハイフォン市都市環境整備にかかる環境教育・普及啓発プロジェクト (3)
- バングラデシュ国における事業 (18)
- 企業の人材育成事業 (1)
- 市民の市民のための環境公開講座 (4)
- 日本の環境を守る 若武者育成塾 (7)
- 東京シニア自然大学 専科 (2)
- 東京シニア自然大学 本科 (1)
- 清里ミーティング (3)
- 王子の森自然学校 (2)
- 人が育つ場づくり (5)
- 国際事業コラム (24)
- 地域の課題解決あの人に聞きました! (8)
- 寒さを楽しむ。温もりを感じる。 (1)
- 小さなサスティナブルのカケラ (4)
- 投稿 (4)
- 次世代のホープ達 (3)
- 清里ミーティング30thコラム (1)
- 特集 (131)
- 「伝える」ちから (3)
- 「未来を豊かに」を仕事にする (5)
- 「食」をとおしていのちをつたえる (3)
- 2020年までにチェックしたい9つのサスティナブル・トピック (3)
- esdユネスコ世界会議を終えて (4)
- JEEF25周年 私を形づくっている自然の原体験 (3)
- SDGs×教育 (3)
- アクティブラーニングってなに? (3)
- あなたの買い物が社会を変える (3)
- いま泊まりたい“学べる宿” (3)
- クリスマスの景色が変わる?生き物の変化と気候変動を知る。 (3)
- さあ! 2枚目の名刺をもとう (3)
- サイエンスと環境教育 (1)
- シニアからの環境教育 (2)
- どうする? サスティナブルな洗濯 (3)
- メディアを使った間接コミュニケーション (3)
- もうすぐ春がやってくる! 写真で伝えるセンス・オブ・ワンダー (1)
- 人と環境をつなぐ「花」のおはなし (3)
- 人気アウトドアメーカーは どんな環境の取り組みをしているの? (2)
- 今、子どもに向けたワークショップが熱い! (2)
- 今年こそ、エコツアーに行こう! (6)
- 今年こそ資格をとろう!自然体験型環境教育の資格・認定 (1)
- 地域を動かす移住者たち (3)
- 変わる!プラスチックの使い方 (3)
- 外であそぼう! (4)
- 夫婦で森に生きる (3)
- 子どもたちの自立を育むコミュニケーション (3)
- 学校で有効な環境教育的教育手法 (3)
- 市区町村の都市型環境教育のとりくみ「水」「森」「施設」 (3)
- 日中韓の環境教育の今 (3)
- 日本ならではのSDGsって? (4)
- 海の環境問題と環境教育 (3)
- 清里ミーティング30th (5)
- 環境教育✖️フェス (4)
- 環境教育って効果があるの? (2)
- 環境教育施設としての動物園・水族館 (3)
- 自然を感じる服 (3)
- 自然学校でラーケーション&ワーケーションしよう! (1)
- 自然学校の今 (7)
- 遊ぶ、学ぶ、サステナブる。 (1)
- 里山イニシアチブ 野生動物と向き合う (1)
- 食とエネルギー (3)
- 食べ物を育てる×教育 (2)
- 食品ロスから環境を考える (3)
- 理事コラム (11)
- 環境教育のものさし (7)
- 考えるっておもしろいかも!? (31)
- 超大 狩猟免許をとる! (3)
- 鈴木みきの山便り (5)