対談:なぜ進まない? 環境教育の効果測定
- 2016/12/07
- カテゴリー:特集, 環境教育って効果があるの?

対談:久保沙織(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター)× 鴨川光(GEMSセンター)
— 環境教育の効果を具体的に証明できないのはなぜでしょうか。省庁の環境教育効果測定調査業務に関わられて、感じたことはありますか?
何を知りたいのかわからない
久保 効果測定に関する調査業務では、調査の設計から加わりました。インタビューやアンケートでどういう内容をどういう聞き方で質問したらいいかなど決めるところからです。
調査の実施においては、まず測定したい構成概念を定義することが大事です。「こういう概念はこういうことを意味している」ということを、自分たちで煮詰めて明らかにすることが第一歩なんです。つまり「環境教育の効果とはこういうことを意味している」ということを言葉で表現することが大事。それをまずして欲しかったのですけど、最後までできないまま終わったという印象です。何を測定したいかを少なくとも言語化してもらわなければ始まらないのです。どうしてもそれができないのだなと感じました。
鴨川 測定云々の前に、測りたいもののイメージがしっかりとしていないということですね。
久保 何度もお伝えしたのは、幅広くてもいいし沢山あってもいいので、とにかく言語化する努力をしてほしいと。しかし、「ふわっとしているし、効果はいろいろあるから一言では言えない」。という答えが返ってきます。一言で言えないのは当然だと思うのですが、言う努力は必要です。
鴨川 ニュアンスできているところがあるので。いろいろ育つよ、というような。
久保 困りましたね。「いろいろ効果はある」と言われますが、結局、依頼者側もどんな効果があるかわからないので、まずはどういう項目があるかピックアップしたかったようでした。去年は参加者インタビューに関してトピック分析をしました。プログラムに参加した親子に、楽しかったことや印象に残ったこと、参加をきっかけに始めたことなどを聞いて、その中で共通して取り上げられている話題は何だろうと共通項を浮かび上がらせるのです。
まずは測定したいことを言語化すること
鴨川 環境教育業界では、測定のための実践というより、終わった後に感想を聞く、という習慣だと思います。
久保 感想文となると、参加したプログラムに依存した感想になってしまいます。例えば火おこしのプログラムをしたとして、本当に知りたい事は、火起こしができたかどうかではなく、もっと深い次元で内面的なことですよね。よく「プログラムによって効果は違うんだよね」って言われるのですが、違っていていいんです。
似たような効果をまとめる作業や、個別(プログラム)による効果とそうでないものを区別するといった作業は、後からやればよいのです。
鴨川 プログラムごとに効果の細かい違いはあると思うけど、そこに通う精神的なものや認知的な部分というのは、そう変わらないと思うんですよね。山登りとカヌー体験で内側に起こることがそんなに違うかと言ったらそうではないと思います。ほんとうに測りたいことって、やはりそっちのことのはず。
例えば「環境教育の効果ってなんですか?」って主催者100人ぐらいに聞くとそれなりに絞られてくると思う。子どものアンケートから抽出できることって、効果とは違いますよね。子どもの感想をカテゴリーする箱がない状態じゃないですか。先に期待される効果というのが挙げられていれば、この感想はこれに該当すると言えます。どこから手をつけたらいいですかね。
久保 やはり主催者側から「環境教育の効果としてどんなことが考え得るか」を言葉で表現してもらう必要があるのではと思います。子どもや親から何か引き出そうとするから、何も出てこないのかもしれません。主催者側に光が当たっていないのが問題です。100でも200でもいっぱい言ってもらっていいんです。
とりあえず取ったデータでは分析できない
久保 統計的な手法を適用した結果として出てくることは、データの質に依存します。質問していない事はわからないわけですし、何を知りたいのかを明確にすることが一番大事です。調査計画を立てないまま適当に取ったデータを用いて、分析結果は何もでませんでした、となるのは当たり前ですよね。
鴨川 お話を聞いて思ったのは、プログラムに効果があるということを客観的に示す必要性を、実感できていないのかなと思いました。環境教育って言っている以上、何が残っていくのか知りたいですよね。レジャーキャンプと環境教育としてのキャンプと何が違うの? という疑問に効果を示せないと…。評価軸や効果の枠組っていうのは主催者側しかもてないですよ。
久保 今振り返ると、主催者側から引き出す方針でいいのだと思います。参加者から引き出そうという意識が強いのですが、そうではなく、主催者が何を学ばせたいか、何を学んだと思わせたいかで全く問題ないと思います。
アメリカの評価軸
鴨川 アメリカの学習指導要領の評価軸を思い出しました。横断的なんです。領域固有の概念×プラクティス×共通概念。アメリカのサイエンスはこの3つの掛け合わせで評価軸を作っています。このプラクティスっていうのは、単なるスキルではなくて実践できるという意味を含んでいます。(※図1)
「領域固有概念」は、星の周期とか。プラクティスは「比較する」とか「観察する」とか行動レベルのこと。共通概念は「変化のパターンを読む」とか「相互関係を見る」といった認知的なこと。環境教育では「領域固有概念」と「プラクティス(スキル)」って注目されてるんだよね。でも「共通概念」が弱いのかもしれない。
久保 似ているなと思ったのが因子分析の考え方です。国語・英語・数学などすべての学問に共通する部分「一般因子」と、科目ごとに固有な部分「特殊因子」とに分けて知能をとらえようというのが、因子分析が開発されたきっかけです。
鴨川 なるほど。例えば一般因子の部分に環境教育を当てはめた場合が、これから必要になってくるわけですね。生きる力とか○○の力って。
— 考え方がこれだけ整理されていたら、私だったら言葉を挙げていけそうですけどね。
久保 そうか。まずここから説明しないといけないのか! 確かにこちら側が挙げてくださいといってもできないのは、なぜそれが必要かわからないし、こういった考え方に慣れていないからなんですね。確かに。反省しました。
鴨川 僕も統計を学んできているので、なぜ環境教育業界ではこういった捉え方をしないんだろう。と不思議に思っていたのですが今わかりました。
久保 しないのではなくて、こういった考え方の存在に気づいてないということですね。分けて考えるということをしないんですね。やってもらうには伝え方って大事なんだなって今本当にわかりました。
個人々の意識改革を
鴨川 明日から取り組めることはなんでしょうか? 例えばどうやったら育ったって分かるんでしょうか。
久保 参加前と参加後のプレポストは大事ですね。そのため、参加することを継続することも、調査を継続することも大事ですね。
鴨川 個で活動している人は、あまり悩んでいないかもしれません。自分の目には効果が見えるから。だけど業界の発展を考えた時に必要だよねと思うはずだから、率先して言語化してほしいですね。
久保 省庁も私たちもそこが知りたいですし、そこが明らかになれば色々なアピールができると思います。一つずつでも日々ピックアップしていくことですね。
鴨川 最初はKJ法(※2)でカテゴリーができてきて、幾つかに分類されたとなると、それを業界として掲げられたらいいな。抽出されたカテゴリーの中にはきっと新しい学習指導要領と噛み合わせのいい力が含まれているはずです。
久保 そしたら後々、学校での勉強や普段の学習態度等におよぼす良い影響も明らかになると思います。
鴨川 環境教育ではこの力が養われて、それは学習指導要領のここを下支えするものだから、学習意欲も伸びますよと言える。
※2 KJ法
文化人類学者である川喜田二郎が考案したデータ集約のための手法。自由記述をカード化し、それをグループごとにまとめてカテゴリー化することによって、自由記述をデータ化することができる。1枚のカードには1つのデータだけを記述し、複数の文章がある場合はそれぞれ別のカードを作る。カードの中から似たものを小さなグループにまとめ、それぞれのグループに見出しをつける。そして近い小グループどうしをまとめて大きなグループを作り見出しをつける。
アンケートは意味がないのか?
鴨川 今のアンケート調査(評価シート)がまずい点は主に2つあって、1つは事後の1回だけで取ってるから変化が見られないということ。2つ目は、何を測定したいかわからないから、何を聞けばいいかわからなくて、3点数が上がろうが意味がないという結果に。
それに子供だって気を利かせますよ。大人が何を求めているかわかります。このレベルだと効果があるという共感は得られません。
久保 いえむしろ、共感を得てしまっているから問題なのではないでしょうか。現場の人たちがもし、それですごい!効果ある! と思っていたら前に進みません。そのアンケートが本当に意味のあるものなのか、正しく判断できなくてはなりません。
その質問で、本当に自分たちが示したい「教育効果」が測れているのか、例えば3点と4点のその1点の差が意味するのは具体的にどのような「効果」なのか、そこまで吟味した上でその1点の差から「教育効果」が上がったと言えるのか。これまでのやり方をただただ踏襲するのではなく、疑ってみることも必要です。
— では、アンケート以外に、やりようはないのでしょうか?
鴨川 一つは行動観察を複数人で行う、ビデオ取りですね。それでも結局クラスターが必要ですし、何を測定したいかを言語化できないと行動観察すらできないということになります。
久保 やはり概念を言語化することが全ての始まりだと思います。
— 何が知りたいのか挙げないから、方法が決められないんですね。
久保 そうです。何が知りたいのか決めることができれば、それに見合った方法を考えられます。領域固有と共通概念の二つでもいいと思いますので、皆さん自身のプログラムを図1に当てはめて、言語化することを心がけていただけると良いと思います。
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