板橋区のとりくみ エコポリスセンター
- 2016/06/01
- カテゴリー:市区町村の都市型環境教育のとりくみ「水」「森」「施設」, 特集

文:高松敬委子 インタビュー対象:田中大介((株)学研プラス)


2015年4月で20周年となることを記念して、展示什器がリニューアルされました。「環境問題は“啓発期”から“実践期”へ移行している」との考え方から、「見える・交流できる」「遊び・新しい発見」「自然・緑・癒し」の3つのテーマで整備が行われました。
新たな展示として、1階の環境情報交流コーナーにはウェルカムウォールやエコ「ライブ」ラリーを設置。地下1階の環境活動情報コーナーにはコロコロエコボールやエコポリクイズ、映像装置を設置することで、遊びを通して環境を学ぶことができるよう工夫されています。
基本的な活動理念は「知る、考える、行動する」
エコポリスセンターは、環境問題について理解を深め、地域に優しい環境に配慮した生活様式を共に考えていくため、次の3つを軸に活動している。
- 知る…まず、エコポリスにセンターに行くこと、そして、企画展、イベント、講座に参加する。
- 考える…環境観察、環境講座、エコチェックシートなどから、身近な環境について考える。
- 行動する…エコチェックシートなど、身近なできることからはじめる。
同センターの事業の特色の一つは「出前事業」といえる。板橋区内の幼稚園や保育園、小中学校、高校に向けて、環境に関することのほとんど全てと言えるほど、多岐にわたる内容の出前授業を行っている。例えば、都市ならではの出前授業として、何ができるのかと訊いてみると「都市の中でこそ必要であり、すべき授業は『トンボ救出大作戦』だ。」と答えた。都市の中では、トンボはプールに卵を産んでしまう。プール開き前にどの学校でもプール清掃をして水を全て抜いてしまうのだが、その前に小学校の生徒たちと一緒にプールで孵化したヤゴを救出し、ヤゴやトンボのレクチャーをしてトンボまで育ててもらうのがヤゴ救出作戦。
ヤゴを救出することで板橋区のトンボを増やし、その先にはトンボを含めた生態系を豊かにするための活動を生徒たちに実際に体験してもらう。都会に残された生き物を通して環境保全を実感できる出前授業である。救出では大量にヤゴが採れるので、保育園や幼稚園を巻き込んだヤゴ里親作戦という出前授業も実践している。この時期は約20校分を、3週間ほぼ毎日ヤゴの救出を行う。
その他、区全体で力を入れている事業「緑のカーテン」や、埼玉県嵐山町の地元団体の協力のもと、年間を通して「里山体験」を実施している。(6月:田植え、7月:水生生物やオオムラサキの観察、10月:稲刈り、1月:間伐体験や落ち葉で滑り台、3月:しいたけの植菌。)
またもう一つの特色としては、バックグラウンドが様々な専属スタッフが常駐していることだ。環境教育だけの専門家はいない。環境教育をベースに、海洋/土壌/希少動物/美術/地質/教育(家庭科/特別支援)等のそれぞれの専門を生かした、ユニークなプログラムを実施できる。

ヤゴ救出作戦
出前授業として約20校にて、プール開きの前にトンボの赤ちゃん(ヤゴ)を救出。
様々な人たちと協働で講座を企画・実施
夏休みエコスクールは、夏休み期間毎日開催される夏の一大イベント。同センターだけでなく、企業、NPO、登録環境団体、学生などと協働で講座が実施される。企業にとってはCSRの一貫として、登録環境団体にとっては認知拡大の場や実績として、学生たちにとっては経験の場として活用されている。特に、一緒に環境教育を学んでいきたい学生個人向けには「エコライフサポーター制度」を設けている。この制度に登録する学生個人は、単なるボランティアとして関わるだけでなく、講座を企画し実施するといった主体的な関わり方をしていく。
エコライフサポーターたちが活躍する事業として「エコホラーハウス」が人気のようだ。施設全体を使い、ハロウィンの仮装で司会や演技をしてもらう。いくつかの部屋にエコに関する謎が隠されており、その謎を解いていくとゴールできるというものだ。ストーリーだけは職員が設定するが、問題の考案や装飾、実施は全てエコライフサポーターが行う。参加者の学びになるだけでなく、実施者側にとっても大きな学びとなる仕組みとなっている。

建物自体がエコロジカルな作りになっており、既に20年前には、太陽光パネルや太陽熱集熱器、ビオトープが設置されていた。現在は光ファイバーを通して太陽光をそのまま照明として利用できる「ひまわり」が設置されてる。
子どもの対象年齢の変化
同センターが設立された当初は、小学校高学年を対象とした学習施設であった。確かに、高学年のほうが環境学習への理解は深い。しかし、今の風潮では高学年はあまり訪れないそうだ。田中さんは言う。「低年齢化が進んでいますね。最初は区がやっていたことを踏襲していましたが、今では対象を1年生以上にしています。」さらに、里山体験は、対象年齢を「5歳以上」とかなり下げたそうだ。
親の関心が高くなったことが、低年齢化のひとつの要因だ。「自然体験をさせたいと考える親御さんが増えています。感覚が鋭い低年齢のうちに、泥に触れたり、風の匂いをかいだりするような様々な五感を使った体験をすることによって楽しく学んでもらった方が、心に響きますからね。」

エコホラーハウス。一緒に環境教育を学んでいきたい学生たちが主体の「エコライフサポーター」が、企画した事業。リピーターが多い大人気。
幅広い層が参加できるイベントを用意
施設を全体的に見ると、子ども向けの事業ばかりではない。「リサイクルワークショップ」や「かんきょう観察会」のように、年配の施設利用者が多い企画もある。また、エコポ祭りの「フリーマーケット」は、買い物を目当てに来館した人々に対し、環境に関する情報を提供するよい機会となっている。
施設内の「いかけやさん」を目的に来館する人も多い。江戸時代から続く職業としての説明をしながら「当時世界で有数の人口を誇った江戸だが、まったくゴミがなかったのは、修理をして物を長く大切に使っていたからである。その中で鋳掛屋という職業があり、主に鋳物製品の修理を行っていた。エコポリスセンターには現代のいかけやさんとして鍋修理から包丁研ぎ、傘修理までしてくれる方々がいて物を大事に使い続けることができるようになっている。」という江戸の知恵を学ぶきっかけにしている。
また、区民祭りに出展し「エコチェックシート」に記入を呼びかけている。すると、センターを全く知らない人たちが集まり、2~3000枚のエコチェックシートが回収される。
区民の自主的な活動を応援
指導者を養成するためのハイレベルな講座として「エコライフマスター講座(初級〜上級)」が用意されている。最終的にはプログラムをつくり、実施できるようになるものだ。例えば一年目の初級は、公園でフィールドについて学んだ。中・上級は都留市で合宿しながら里山でインタープリテーションなどの指導方法を学んだ。しかし、都市の中では修了生の活動の場を設けることはなかなか難しく、同センターの夏休みエコスクールで講座を実施することを目標にしている。過去の例としては、マスター講座を修了した主婦たちがグループを作り、「森のようちえん」を想定し「森のお弁当づくり」というプログラムを実施した。講座以外の例としては、NPOを作り自主的に活動を始めた修了生たちもいる。
このように、修了後、自主的な活動につながることを期待している。
同センターは、駅から離れた場所に位置しながらも、付近には小学校がいくつかあり、下校途中の小学生が立ち寄ることが多い。彼らは、特に環境に興味があるわけではなく、とりあえず寄ってみたというだけだったり、お気に入りの持参したゲームに夢中になっていることもある。このような子どもたちの興味をいかに惹き付けることができるかが、今後の社会的インパクトに大きく関わってくるのではないだろうか。30周年にはどのような変化を遂げているか楽しみだ。
文責:高松敬委子(JEEF職員)
2016年3、4月号
- 板橋区のとりくみ エコポリスセンター
- 新宿区のとりくみ 職員間の活きた交流が育む新宿の森
- 考えるっておもしろいかも!?第3回 かも福島に行く
- 水の学校 武蔵野市のとりくみ
- アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 5 〜実践者になるための計画 編〜
- JEEFインドネシア事務所 7カ月のインドネシアインターンを終えて
- リサイクルの意識は高いが…。(フィリピン)
- ネパールの人間開発3
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