機関誌「地球のこども」 Child of the earth

最終回:雪の音 2013.12.01

文:鈴木みき

もうすぐ山に雪が降り出します。もしかしたら私たちの気づかないうちに最初の雪は降っているかもしれません。私は東京と千葉で生まれ育ったので、1月の中旬くらいにドカッと降って翌日には黒くグチャグチャになる雪しか知りませんでした。降ればにわかに得をしたようで嬉しいものでしたが、好きというほどではなかったと思います。ところが今は冬が近づき北海道や富士山で初冠雪のニュースが届くと雪が恋しくて仕方ありません。ああ、この季節がやってきた! 山が真っ白になるこの季節が! 他の季節よりも神々しさを増す雪山の姿を思い描いてじーんとするのです。

私が山を好きになってまず行動に移したことは「山に登る」ではなく「山で働く」でした。以前にも書きましたが運動音痴なので登山をしようだなんて恐れ多くて私の辞書には載っていません。ただ山が見たい! 山のそばにいたい! まるで恋心を募らせて満を持してスキー場のアルバイトに応募したのです。
アルバイトの休み時間ともなれば長靴を履いて森を散策… というよりも毎日迷子になっていました。車道や民家からそう離れていませんが、森には誰もおらず雪面には私の足跡だけ。晴れた日はもちろんですが、しんしんと降る日もゴウゴウと降る日も歩いていました。どんな日も本当に美しくて私はすっかり雪のとりこになってしまったのです。とくに雪山の音が好きです。雪は余計な音を飲み込んでしまうのか「しんしん」「はらはら」「キラキラ」と降っている音だけがするような気がします。足元は「きゅ」「はふっ」「ずっ」と足の音。深くて軽い雪だと足音すらしないこともあります。立ち止まると「しーん」と静寂の音が実際にするには驚きました。見上げれば真っ白で見事な山々、こんな風景を独り占めできるというのが私にとっての山の喜びでした。

「雪山に行く」と聞くと、とんでもないと思う方が多いと思いますが、なにも稜線を歩いて登頂するだけが雪山ではありません。スキー場でスキーやスノーボードをしたり、広い雪原をスノーシューで歩いたりするのも雪山の楽しみ方のひとつです。夏山の経験者なら冬も登山口から2時間ほどの森歩きで到着できる麓の山小屋もあります。そこを目的地としてもいいでしょう。この冬、他の季節にはない山の表情を見にいってはいかがですか?静かな山の雪の音を聴きに行ってください。

★今回が最終回となります。短い間でしたがありがとうございました!また山で会いましょう。

鈴木 みき(すずき みき)

イラストレーター 1972年東京生まれ、山梨県八ヶ岳南麓在住。登山専門誌を中心にイラスト、ルポを寄稿しつつ、最近ではコミックエッセイで山の楽しみかたを紹介し、登山初心者を応援している。登山同行ツアー、テレビ出演、講演など活動は多岐にわたる。
【ブログ】http://ameblo.jp/suzukimiki/

suzukiBook

【好評発売中】
「鈴木みきの山の足あと」(山と渓谷社) 販売価格:1,260円 (税込)

カテゴリー

最新の記事

地球のこどもとは

『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。

JEEFメールマガジン「身近メール」

JEEFに関するお知らせやイベント情報、
JEEF会員などからの環境教育に関する情報を
お届けします。

オフィシャルSNSアカウント

JEEFではFacebook、Twitterでも
情報発信を行っています。
ぜひフォローをお願い致します!