機関誌「地球のこども」 Child of the earth

世界はサステイナブルな観光へ 2017.06.08

文:森 高一(NPO法人日本エコツーリズムセンター)

今年は国連サステイナブルツーリズム年

2017年は、国連「開発のための持続可能な観光の国際年」です。あまり聞きなれない国際年の名称ですが、英語の原文では「International Year of Sustainable Tourism for Development」つまりは「サステイナブルツーリズム年」です。また「〇〇ツーリズム」の新しいのが出てきたと感じられるかもしれませんが、これも2016年からスタートした国連SDGsから捉えるとしっくりくるかと思います。詳しくは、国連広報センターのホームページを参照ください。

今日、海外旅行に出かける人は年間12億人にも上るそうです。観光は、多くの開発途上国において重要な産業であり、かくいう日本でも政府が力を入れてインバウンド(訪日外国人旅行者)の拡大を進めています。国内の旅行者を加えると、さらに膨大な数の人が移動しているわけで、これは今後も右肩上がりに増大すると見込まれます。

観光によって経済活動の活性化につながり、人々の交流が促進され、その結果として貧困や差別をなくすことや平和を維持することにも通じる、まさにSDGsで掲げられた目標を達成していくのにうってつけな施策と言えましょう。

しかし、あまりにも大量の旅行者が特定の地域に集中したり、受け入れる地域側に持続可能な社会づくりにつながる基盤整備ができていないようでは、かえって地域の文化や自然、コミュニティを壊すことにもなりかねません。

これまで世界で進められてきた観光開発には、観光資源と見なされた地域に大量の旅行者を送り込み、地域の文化や自然の切り売りとも言えるようなケースが往々にして見受けられました。そうでなくても観光事業に携わる人が利益を得る構造でした。代案として、その地の貴重な自然環境を保全しながら観光することで地域の経済化へとつなげる「エコツーリズム」や、地域の一次産業をベースに体験や交流の付加価値をつけて活性化に結び付ける「グリーンツーリズム」などが、1990年代くらいから世界各地で取り組まれていきます。

今日いう「サステイナブルツーリズム」は、そうした流れにあって、地域社会ひいては地球環境に過度なインパクトやストレスをかけず、持続可能な開発を実現する「観光」を目指すものです。

地域で守られてきた信仰の場も大事なスポット

地域で守られてきた信仰の場も大事なスポット

サステイナブルツーリズムの国際認証

国連の関係機関であるGSTC(Global Sustainable Tourism Council)は、このサステイナブルツーリズムの国際認証を作っています。現在、認証の規準には「観光地用」と「宿泊施設・ツアーオペレーター用」の2つが出されており、日本エコツーリズムセンターでは、地球環境基金の助成を受けて、この基準の翻訳や国内での普及に向けた研究会やフォーラムを行ってきました。この基準で上げられているのが、次の4つの柱です。

  1. 持続可能な経営管理
  2. 地域コミュニティの社会的・経済的利益の最大化と悪影響の最小化
  3. 文化遺産の魅力の最大化と悪影響の最小化
  4. 環境メリットの最大化と悪影響の最小化

それぞれに細目が続きますが、観光産業においてもSDGsに掲げられたサステナビリティを脅かす事項をなくし、持続可能な社会の実現につなげていく強い意志が感じられます。日本ではまだ大きな注目を集めているわけではないのですが、世界各地から旅行者が訪れ、多くの人が海外へ向かう今日、日本各地でも持続可能な観光は今後より重要なテーマになると思われます。

日本エコツーリズムセンター サステイナブルツーリズム国際認証

日本のエコツーリズム

1980年代、世界ではガラパゴスやコスタリカをはじめアジアの熱帯雨林や海岸などで、地域の経済化と自然環境の保全を実現しようとする、いわゆるエコツーリズムの概念と取り組みが進められていきます。90年代初頭には日本でもその話題が盛り上がり、日本環境教育フォーラムでもローカルな集まりとしてエコツーリズム研究会が結成され、定期的な会合を持っていました(筆者はその事務局を担当)。

当時は、自然体験のツアープログラムとして、事業化の可能性や環境教育の効果などが注目され、自然へのインパクトをどうはかるか、どんなルールを地域でつくるべきかなど議論した覚えがあります。

その後、屋久島や白神をはじめその地の自然を体験する旅のスタイルができ、民間のガイド業もしっかり根付いてエコツアーの事業が生まれていきます。また同時期に、農水省の事業としてグリーンツーリズムが各地で取り組まれ、農家民泊や農林水産業の体験が定着します。今日まで継続している地域も各地にあり、修学旅行などで多くの子どもたちが地域に入っています。

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「エコ」や「グリーン」などで細かく定義分けするのが重要ではなく、この四半世紀に日本でも、地域の自然や生業、文化をその地で体験し、地域の方と交流する旅の仕方が社会化されていきました。

海外で主に取り組まれてきたエコツーリズムには、熱帯林や島しょ部、山岳地域など生態学的にも重要な自然環境を持った場所で、いかにその環境を損なうことなく価値化を果たし、地域経済にも寄与して開発圧力から環境を守るかという理念が根底にありました。

日本の場合、ほとんどの場所が有史以来数千年各地に人が住み、自然と折り合いながら生業をつくってきた地域です。その時点から海外とは事情が違うのですが、そういう地であるからこそ、自然と折り合う地域に外から人が訪ねるというツーリズムのあり方がつくれたと考えます。まさにそれこそが持続可能な地域づくり、つまりはサステイナブルツーリズムではないかと思うのです。

自然エリアへのエコツアーでは少人数が原則

自然エリアへのエコツアーでは少人数が原則

持続可能な観光地域づくりに向けて

「観光」というとどうしても旅行に出かけて、ホテルに泊まり、観光施設や観光ポイントを回って、おみやげ買ってとイメージしがちですが、国連広報センターの言葉にもあるように、観光とは「人の移動」です。

今日本の地域は、少子高齢化や人口減少が大きな問題になっており、今後もその流れは止まる見込みはありません。定住人口が減るのであれば、そのスケールに見合った地域経営が求められます。ただ流動人口が適当に動いていれば、少なからず地域の経済にも交流にもプラスになるでしょう。

少人数で一度に集中せずに、その地域独自の体験を旅行者自身が享受して、地域の経済活性化や人的交流にも通じる旅のあり方。地域側でいえば、観光事業者だけの産業ではなく、人が来ることによって、他業種も含めての経済的な波及を生むことが求められています。

若年層の就業機会の減少や高齢化による後継者不足、教育、福祉の充実など、地域が抱える問題は広く深いです。観光を軸としながら地域の諸問題にも対応を目指す、いわゆる「観光地域づくり」が希求される所以です。

国連のサステイナブルツーリズム年の指定により、今年は国際機関も専門家も、観光事業者もいろいろな動きがあるでしょう。しかしながら基本は旅行者を受入れる「地域」にあると考えます。そしてそれは今年1年で終わることは決してありません。

外国人旅行者が増え、国境を越えた人の移動がますます進む今日、外からの旅行者を受入れ地域と向き合ってきた、自然学校をはじめエコツーリズム、グリーンツーリズムの実践者の皆さんが、その担い手となると信じています。

囲炉裏端で焼きおにぎりを焼く、中国からの旅行者

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森さん

森 高一(もり こういち)

(株)森企画代表取締役 環境コミュニケーションプランナー。大学卒業後より環境教育、環境コミュニケーションの企画・プロデュースの世界へ。東京ガス・環境エネルギー館の立ち上げやストップおんだん館のプロデュースのほか、現在は日本エコツーリズムセンターの共同代表や大妻女子大学の非常勤講師など務める。

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