心地よく気持ちのよい「地球に配慮した暮らし」を感じる宿 〜バリのエコホテルMana Earthly Paradise〜
- 2020/04/03
- カテゴリー:いま泊まりたい“学べる宿”, 特集

インタビュイー:濱川 明日香(一般社団法人Earth Company)
文・インタビュアー:垂水恵美子(JEEF職員)
ある日、出張先のホテルでふと思いました。私は、さまざまな地域に出向いて環境教育プログラムを提供する仕事をしていますが、宿泊するのは普通のビジネスホテルが多いのです。
朝食はビュッフェ、断らなければ毎日行われるベッドメイクや、アメニティ・タオルの交換。快適ではあるけれども、サスティナビリティを目指すうえでは大きなジレンマがあります。
そんな時、ありとあらゆるエコテクノロジーを導入し、地球環境に配慮した暮らしが体験できるホテルがインドネシア・バリ島にオープンしたと耳にしました。泊まるだけで学びと気づきがある宿なんて、聞いただけでワクワクしませんか? エコホテルを運営する、一般社団法人Earth Company共同代表の濱川明日香さんにインタビューしました。

MANA EARTHLY PARADISE
“持続可能な社会”の理想をかたちに
Mana Earthly Paradise(以下、Mana)を創ろうと思ったきっかけは何ですか?
Earth Companyのビジョンは「次世代に残せる未来をつくる」ことです。今の状態では地球も世界も後世に残せるものではありません。私たちが今の生活を続けていく限り、私たちの子どもたちに残せる未来がどんどん危ぶまれていきます。これではいけないと思って、私たちは社会変革を起こせる人の支援・育成と、社会貢献を踏まえたビジネスへとシフトしたい企業への支援を行っています。
そんな私たちのビジョンのひとつのあり方を実現したいと思ったのがホテルのきっかけです。自然と人間、自然と社会、存在することで自然も社会もよくなっていく一つの事例をつくりたかったんです。
濱川さんの口調はとてもいきいきと、まるで自分の宝ものを披露する子どものようです。そんな濱川さんの想いが詰まったManaは、土のうを積み上げて建てるアースバック工法(※)で建築された施設、照明はすべて太陽光発電、水は雨水タンクに貯めたものを使用、さらにトイレやシャワーにまでエコにこだわって造られています。
※アースバック工法
建設場所の土、土のうを積み上げてつくる安価かつ短期間で建設可能な工法。その耐久力は100年ともいわれ、昼は涼しく、夜は暖かいため空調要らず。国連が難民キャンプに導入し、NASAは宇宙開発に検討するなど世界的に注目されている。
様々な最新エコテクノロジーが活用されていますが、施設の周りの人たちとはどんな関係を築いていらっしゃいますか?
九州大学と連携し、マナがある村の人々が現実的に導入可能なオーガニック農業のノウハウなどをトレーニングするプロジェクト を計画しています。今はまだ地元の食材を十分に使うことができていません。
例えば、私たちのレストランで使っている鶏は平飼いのオーガニックチキンですが、この村のオーガニックチキンは細すぎてレストランでは使えません。野菜もオーガニックで在来種のものだけを提供していますが、そんな農家さんは地元にいません。そのため、村で食材を買うことができないんです。
そんな彼らの生活も困窮しているので、改善に貢献していきたいと思っています。もっと農業がエコやオーガニックにシフトし、クオリティが上がれば、私たちも彼らから買うことができるし、長期的に村が改善されていくことにつながるwin-winな関係が築けます。ただ、その必要性を理解してもらうことがすごく大変。村長さんには理解してもらえるようになりましたが、それが村の人たちにまで浸透していくには時間が必要です。
それが実現できれば、とても理想的なかたちが実現できますね。他にはどのような計画があるのですか?
ゼロウェイストホテルになりたいんです。今は基本的に残飯をコンポストで、どうして も出てしまうゴミはリサイクル業者に引き取ってもらい、約80%がリサイクルされています。残りの20%をどうにかしたいと思っているところです。
その20%がたどり着くゴミ山があります。バリ島には今までゴミ処理場があったことがなく、基本的にバリ島で出たごみの半分ほどがそこに行きます。悲惨な状況のゴミ山を見ると、一生分くらい環境に対する意識がかわると思います。それくらいインパクトのある環境です。
日本のごみも、きちんとリサイクルされているかというと、持っていかれた先で燃やされてエネルギーにされていることも多いです。燃やすための燃料や、燃やすことにより発生する二酸化炭素の排出量は、甚大です。ゴミ問題の解決には寄与するかもしれませんが、気候変動には悪影響を与えてしまいます。日本にいるとあまりそういったことを考えませんが、ここでは考えるようになります。
濱川さんがおっしゃるには、バリ島は観光産業で経済が成り立っている一方、観光客が地元住民の13倍もの水を使っているため、農業などの水が足りず、住民の貧困が悪化しています。また、ゴミ処理場がスラム化するなど、環境問題と社会課題が重なり合って事を複雑にしています。ホテルという手段で観光産業の内側からこういった社会課題に取り組むインパクトは今後さらに重要になっていくことでしょう。
泊まって終わりではなくもっとサスティナブルに
Manaには魅力がたくさんありますが、特に一押しポイントはどこですか?
おしゃれだったり可愛かったりというデザインはこだわっています。可愛いからやってみたら結果エコだった、おしゃれだからいってみたらソーシャルだった、そういったただ意識の高い人だけでなく楽しみながらできれば、もっとエコやソーシャルに関心を持ってくれる人も多くなるのでは、と思いました。
例えば、私たちのホテルでは、ワインボトルなどを切ったカップや花瓶を使っています。クリエイティブな発想で、リサイクルを「可愛い」「家に帰ってできるかも」と感じてほしいというのがメッセージのひとつです。こういうのも地元の人たちにやってもらえるように促していきたいです。


最後に、読者へメッセージをお願いします。
私たちのホテルは、電気はソーラーだし、水は雨水だし、いかに自然がないと生きていけないか、地球のバランスがいかに大事かということを感じます。現代の生活は、「私たちは生かされている」という感覚からだいぶ離れてしまいました。でも、「生かされている」のです。そんな感覚を、体感してもらえたら嬉しいです。
また、社会と環境が切り離されて社会課題が語れることが多いですが、そこには切っても切れない因果関係があります。環境問題から生まれる社会課題も多くありますし、気候変動による難民問題など、すべてがくっついています。私たちのあり方が環境にも社会にもよく、それぞれ存在することで周りがよくなっていモデルにシフトしないと、人類の存続に関わる領域に入ってきたと思っています。
夢が実現できない社会、貧困問題は日本でもあります。そういった人たちに寛容になれない社会だというところもあります。見直していくには、自分の存在が社会にも環境にもよい存在であれているのか、サスティナビリティを意識したホテルで体験することで、考えるきっかけになると嬉しいです。
2020年3、4月号
- 事務局長退任にあたって
- 地域資源の使い方から 豊かな暮らしのタネを学ぶ
- 人が育つ場づくり(体験学習的人材育成を考える) 第4回主体性を持った人材を育てるために
- 持続可能な世界を実現する、豊かなライフスタイル体験の場としての宿泊施設
- 小さなサスティナブルのカケラ第2回:今月みつけたカケラは「シェア」
- 心地よく気持ちのよい「地球に配慮した暮らし」を感じる宿 〜バリのエコホテルMana Earthly Paradise〜
カテゴリー
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