機関誌「地球のこども」 Child of the earth

人にも環境にもやさしい持続可能な食システムを目指して 2020.02.07

文:天野 耕二(立命館大学)

最近、世界各地で大規模な気象災害が相次いで起こるようになり、地球規模の気候変動による農業や食料生産への影響も懸念されるようになってきました。

地球温暖化の原因物質である温室効果ガス、食の問題、水資源の問題、エネルギーや経済の問題を関連させて考えるべきだという風潮が世界的にも広がってきています。

世界中で牛肉の消費が増えると、水は足りるのか?

世界各国の専門家が食料生産のために消費される水の量を試算しています。じゃがいも生産1kgあたり100~200ℓの水消費に対して、小麦1kgあたりでは千~2千ℓ、牛肉1kgあたりではなんと1万5千~2万ℓと、驚くべき水消費量に私たちの食消費が支えられていることがわかります。

牛肉の場合は、牛を育てるための飼料穀物を生産する水消費量の多さが影響しています。水が足りない地域に大量の水を運び食料を生産するよりも、水が豊富な地域で生産された食料を水が足りない地域に運ぶ方が経済的にも合理的であることから、地球規模での人口増大に伴って世界各国間の食料貿易が盛んになってきています。

日本は世界の中でも水資源に恵まれた地域であるにもかかわらず、熱量換算(カロリーベース)で見ると、国内食料消費のおよそ6割を海外から輸入しています。

一般的に、経済成長により食生活が豊かになると牛肉の消費量が増えるとされています。2050年頃に90億人を超えると想定されている世界人口の食を支えるための水は足りるのでしょうか。

地球の裏側から運ばれている、日本の食

大学生協食堂での人気メニューを対象に、食料の生産・加工過程と輸送過程に排出される二酸化炭素の量(最も重要な温室効果ガス)を推計してみると、ミートソーススパゲティは親子丼の2倍程度の排出量を示します。その主な要因は、スパゲティの原料であるヨーロッパ産小麦やオリーブオイルの輸入の長距離輸送と、食品加工度の高まりによる多頻度配送と思われます。

また、食というサービスは「栄養」のサービスと考えることもできます。普通の一食分では、親子丼のほうがミートソーススパゲティよりも熱量(カロリー)・タンパク質ともに少し多いので、カロリー当たりやタンパク質当たりの二酸化炭素排出量の差はもう少し大きくなります。
食を比べるときには、食べる量そのものだけではなく、食が提供しているサービス(機能)も重要になってきます。

親子丼については、主たる食材が白米・鶏肉・卵という「自給率の優等生」のように思われるかもしれませんが、鶏肉と卵については飼料(えさ)が国産か海外産かという点に注意が必要です。鶏肉の自給率は60~70%、卵の自給率は100%近いのですが、家畜の食べている飼料の多くが海外産であることから、親子丼についても飼料の輸入による長距離輸送を無視することはできません。

いつ作るか? どのように調理するかも重要

大根や白菜は冬、トマトは夏が旬とされている野菜です。旬でない時期にもこれらの野菜はいまの日本ではどこでも手に入りますが、温室栽培に伴う光熱動力や肥料等の投入による環境への負荷は小さくありません。

ナスについては、夏秋の露地栽培に比べ、冬春の温室栽培では3倍程度の温室効果ガス排出量になります。

また、青果物については、調理方法による栄養面でのサービス水準の違いにも注意が必要です。ビタミンC摂取量あたりの温室効果ガス排出量を計算してみると、多くの品目で炒め調理と比較して、ゆで調理のときの排出量が大きくなります。

これは、ゆでる方が調理時間が長いので環境負荷が高く、かつビタミンC成分のお湯への溶出分があるためです。

図1:グラフ ビタミンC摂取量あたりのGHG排出量

「食をめぐる資源や自然環境」に対する認識が未来の「食」を守る

食材・食品の生産、輸出入、自給率、調理、そして地球環境は密接に関わり合っています。生きていくために欠かせない「食」を持続的に支えていくために、消費者である私たちの「食をめぐる資源や自然環境」に関する認識が重要になってきます。

地場でとれたものを食べること、旬の食材を食べること、環境負荷の小さい調理で栄養がとれるメニューなど、地球環境と私たちの健康を良好に保つことにつながる道を探っていくしかありません。

天野耕二

天野 耕二(あまの こうじ)

立命館大学食マネジメント学部教授。工学博士。国立環境研究所研究員、立命館大学理工学部教授を経て現職。専門は環境システム分析。資源循環・環境問題と社会・経済の関わりを総合的に評価する手法や枠組みについて様々な視点から研究を進めている。

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