機関誌「地球のこども」 Child of the earth

考えるっておもしろいかも!? パート4:第12回 学校教育×ファシリテーション 2020.02.25

文:鴨川光(ジャパンGEMSセンター研究員)

Q 知識を伝えなければならない学校の授業では、ファシリテーションは難しい?

今回取り上げる質問は、特に学校の先生から頂くことが多いものです。教科書や問題集といった予め答えが決まっている課題に対して、どうしたら探究をつくりつつも正しい方向に導けるのか。新しい学びが提唱される中で、先生方も試行錯誤されています。

探究型・対話型の落とし穴

ワークショップやファシリテーションという概念が教育現場にも浸透してきたこともあり、先生が教えるだけの授業(トーク&チョーク型)が昔に比べるとだいぶ減ってきているように思います。

一方で、探究型・対話型の学びがうまくいかないという相談も増えてきています。こういった授業に共通するのは、主に下記(※)の3点です。

 

①は言わずもがなですね。一般的に有効とされる手法でも、目の前の子どもたちとマッチしていなければ効果は上がりません。
②は、型にこだわるあまり、見た目は探究型っぽくなっているものの学びが深まっていかないパターン。アクティブラーニング=グループワークのような先入観を持っていると、この落とし穴にはまります。

探究型・対話型の授業がしっくりこないというご相談の半分ほどは、この2つのどちらかが原因です。

ファシリテーター≠ クイズ番組の司会者

先生たちが最も陥りやすいジレンマが③です。探究も大事にしたいけれど、教科書の知識もしっかり押さえたい| この思いが”誘導型ファシリテーション“を生みます。しかし、ファシリテーションは思考や感情を促したり、深めたりするものであって、1つの答えに導くものではありません。

例えば、「生類憐みの令を出した将軍は誰か?」という問いに対してファシリテーションは向きません。子どもたちから徳川綱吉という答えが挙がらなかった場合、先生が「ほら、犬将軍って呼ばれていた…」などと、ヒントを出して答えに導こうとするクイズ番組の司会者のようになってしまいがちです。

一方、「生類憐みの令を出した時、綱吉はどういう世の中をつくりたかったのだろう?」という正解が1つに定まらない問いは、ファシリテーションによって考えを深めていくのに向いています。

学校の授業にファシリテーションが向かないのではなく、「今は知識を伝える」「今は思考力を育てる」というように、先生自身の目的意識とアプローチが一致していないと効果が発揮されないのです。

知識を「正解」にしない工夫

ファシリテーターも知識を与える時はあります。知識を与えることも含めてさまざまなアプローチの中から、この場でつくりたい学びや、子どもたちの状態に合わせて柔軟な選択をすることで、子どもたちの学びを促すのです。

では、知識が子どもたちの学びを阻害しないために何ができるでしょうか? ポイントは、知識は絶対ではないということを伝えることです。日常生活の中で、教科書に出てきた理論や法則が100%当てはまる場面はほとんどありません。現実には、大なり小なりのイレギュラーがあるので、応用力が重要です。

そして、知識は更新される可能性があります。だから僕は、知識を与える際に「今の科学者の人たちはこう考えているよ」という伝え方をするようにしています。

先を探ってみたくなるような知識の与え方ができれば、知識は学びの促進要因になります。そして、その”先“の探究を促す時こそファシリテーションの本領発揮。ファシリテーションの特性を理解して、学校でも活用してみませんか?

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