機関誌「地球のこども」 Child of the earth

大人と子どもで創り出す教育の魅力 〜SDGs×教育の魅力〜 2019.12.13

文:山藤 旅聞(新渡戸文化小中学校・高等学校)

答えのない課題の魅力=「生徒の楽しい」

生徒が主体的に、そして協働的な「学び」を始めるときはどんなときでしょうか。その答えとなる教育デザインをずっと考えてきました。そして15年間の教育活動の中で、生徒の反応から全てを教わってきました。

教わったのは「楽しい、美味しい、美しい、生徒が知りたい、生徒がやりたい、体験、知識とのズレ、知っていることを活用できる」を授業デザインに取り入れる大切さでした。

これらに加えて、JICAのブータンでの教師海外研修で、利他的なモチベーションで嬉々として学ぶ学生たちの姿勢から「誰かのため」の授業デザインも加えることにしました。さらに、SDGsとの出会いにより、世界の物差しが、便利さと快適さを求める生活のためのデザインから、世界に答えのない課題の解決に向けてデザインする方向性に大きく変容していることに気がつきました。

最近、これらを掛け算した教育を実践していく中で、生徒から「答えのない課題を自分たちで、そして大人たちと一緒に話し合いながら考えることがとても楽しい。もっと勉強したい。」という声を授業中にかけられたことを今でも忘れられません。

SDGs×PBLの紹介

※Project Based Learning

1:1回の授業でできること

校内に存在するSDGsと関連する「場所」を探す授業展開を紹介します。

グループにiPad等の記録媒体を渡し、時間を決めて校内を散策しSDGsと関連する「場所」にロゴを入れるフォトコンテストです。その後クラス内で、その写真を撮影した理由や、考えたことを発表し合います。

社会課題が身近なところにあり、自分たちの生活のとつながりを考える導入としています。右の写真は、校内の芝生とコンクリートを対比し、そこに「13気候変動に具体的な対策を」と「15陸の豊かさも守ろう」を関連づけた作品です。この写真を文化祭で展示し、一般の方々に「伝える」アクションに発展させていきます。

2:教科横断的な授業で生徒自ら学ぶ目的を明確化

他教科と連携して学習することも可能です。例えば3時間目に「理科」4時間目に「英語」となっている時間割をつなげ、理科の教員と英語の教員でTT(Team Teaching)で担当します。

教材は新聞や雑誌など、時流や社会課題を探せるものを選び、SDGsに関連する題材を扱います。その教材のどの部分がSDGsの17個の番号と関連づけられるか、グループで考えます。

下の写真は新聞の見出しを読みながら、SDGsの関連課題に付箋を貼って、その理由をメモして、グループで共有した事例です。この学びを発展させるために、理科と英語それぞれのどの分野を学ぶ必要があるのか、生徒たちに問う振り返りを必ず実施します。

このように教科をクロスさせて、時流や社会課題をテーマに学びを関連づけると、教科の学びが手段となり、生徒たちはそれぞれの教科を何のために学ぶのか明確になっていきます。

朝日新聞社NIE研修を参考

協働により新しい価値を生み出す経験

教科横断的に、時流を読み解き、SDGsを通じて社会課題を学びながら、その解決に向けて活動している事例を学んでいると、生徒たちは次第に「持続可能な社会を目指すために自分がやってみたいこと」をイメージできるようになっていきます。

右の写真はこの教科横断的な授業を受けていた生徒が、3ヶ月ほどたった頃に書き始めたイメージ図です。これは校内菜園で栽培する野菜や果物をオーガニックにし、その収穫物を活用したカフェ経営のプロジェクト。カフェを手段として保護者や授業の見学者に、持続可能な社会に向けての意見交換をする「場づくり」をしたいという考えを持ち始めました。

今、生徒たちはオーガニックなカフェデザインの海外の事例を英語で学んだり、植物の育て方を学ぶために、生物学の植物の勉強を始めています。

生徒と共に学ぶスタイル

ここで教員は何ができるでしょう? 私は企業へ、この生徒の図を説明しながら取材または出前授業の交渉を始めました。そして、放課後に企業と打ち合わせをしたり、出前授業に来てもらいながら、先生と生徒が一緒に学びを深める授業デザインへと展開していきました。

生徒の「知りたい・やってみたい」を具体化するために、社会と「つなぐ」ための先生の動きがあり、生徒とともに教師も学ぶ教育デザインが次々にできていきました。結果、50近いプロジェクト(※)が生まれています。

※2017年から2019年8月現在

山藤 旅聞(さんとう りょぶん)

新渡戸文化小中学校・高等学校 学校デザイナー。2004年より都立高校で生物の教員となり、2019年より現職。オール実験の授業や生徒の「問い」だけですすめる授業、生徒が主体的・自立的に学びを進める「対話式・双方向性授業」などを実践。現在は、教科と社会課題をつなげて、生徒自らが解決に向けて「行動する」ことを目指す授業スタイルを確立する。

カテゴリー

最新の記事

地球のこどもとは

『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。

JEEFメールマガジン「身近メール」

JEEFに関するお知らせやイベント情報、
JEEF会員などからの環境教育に関する情報を
お届けします。

オフィシャルSNSアカウント

JEEFではFacebook、Twitterでも
情報発信を行っています。
ぜひフォローをお願い致します!