カリブの国に楽しい授業を届けよう(ドミニカ共和国)
- 2017/04/08
- カテゴリー:worldexpress

文:神野 志帆(じんの しほ)
「恥の文化」と「開き直りの文化」
カリブ海に位置するドミニカ共和国の首都地区、サント・ドミンゴ東市では、学校カリキュラムのうち社会活動の一つとして環境教育が実施されていた。多くの生徒は環境問題について理解していたが、各々の生活と結びつけて理解している生徒がいるとは思えなかった。着任後はこの環境教育をひき受けたが、授業をしても生徒たちの心に響いている気がしない、なぜだろう、と思っていた。
日本人がポイ捨てをしない理由として、「間違ったことをするのが恥ずかしいから」という考えが挙げられると思う。しかし、ドミニカ共和国人の中にはポイ捨てを楽しむ者もいる。走行中のバスの窓から歩道に設置してあるゴミ箱をめがけて空ペットボトルを投げる運転手。投げ捨てられたペットボトルはごみ箱を大きく外れ道路脇へ落ちる。そして一言、「残念!ハハハ!」。自分の行動に対する意識文化の違いに気づくべきだった。
日本を「恥」の文化とするならば、ドミニカ共和国は「開き直り」の文化だと理解した。そして仮説を立ててみた。それを検証していくことが私の活動となった。

元気で明るい子どもたち
仮説1:授業内容にドミニカ共和国の具体性が足りない
検証方法:生徒が身近に感じる内容をとにかく楽しい授業にして届ける
着任半年後、気候変動やゴミ削減など世界共通課題を講義形式で行う授業は、ドミニカ共和国の課題や自分たちの生活に結びつけた理解を促すには不十分だと考えていた。
ちょうどその頃は同僚がコンポスト化技術に興味を持ったことがきっかけで、我々が担当する具体的な活動がコンポスト化技術の普及に切り替わった時期だった。
任地がある首都圏で排出されるゴミの3分の1以上は生ゴミである。分別収集が始まっていないここでは、生ゴミを減らすだけでもゴミステーションの臭い、動物によるゴミの散乱が防げる。
生徒たちを取り巻く具体的な話を織り交ぜ、コンポスト化技術の講座は生徒全員に直接体験してもらった。発酵液の臭い、堆肥の温度、生ごみの処理方法、すべてに彼らの五感で触れさせ、感想や応用アイデアを問い、とても賑やかな楽しい学びの場を作ることが多くなった。
巡回校数や、話を聞いた現地団体との共同講習会が増えたのは嬉しい誤算だったが、母親と家庭で応用し始めた生徒がいると聞いたときが一番嬉しかった。

コンポスト化技術講習会で講師を務める同僚
仮説2:指導者が環境教育を知らない
検証方法:指導方法の提案(知識偏重型から体験型へ)
学校からの依頼で授業を行うときはいつも理科あるいは社会の時間であり、知識偏重型の授業方法も効果が出にくいものだった。ドミニカ共和国内で活動する環境教育隊員の間では、現地人指導者の環境教育経験不足や内容ばかりが重視され指導方法が考えられていない、という共通意見により指導者育成の必要性が強く認識され始めていた。そこで環境教育の指導法について研修会を開くこととなり、環境教育隊員とその同僚が講師、教員養成校の学生及び各小中高校で働く若手教員が対象となった。

課外活動で植林を楽しむ女子高生
研修ではドミニカ共和国の学習指導要領における環境教育の位置づけや、環境教育学習における学習者自身の気づきの重要性を説明すると同時に、ドミニカ共和国内で実践可能な体験型アクティビティを紹介した。アクティビティの目的や流れを細かく記載した指導案やアイデア集は現場で使えるように配布し、教材紹介も行った。体験型学習の体験と、指導方法に関する意見交換により、環境教育の質が改善されることを期待したい。
この2年間は、任地における環境教育の基礎の基礎をつくっただけとなり、この仮説、検証についての結論を導き出せるのは数年以上先のことになると思っている。それでも、後任隊員がドミニカ共和国人に寄り添ったより良い環境教育を展開し、山積みの課題が一つずつ解消されていることを願う。

課外活動で公園掃除
2017年3、4月号
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