ネパールの人間開発1
- 2016/03/30
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あれは1993年12月。医療機器メーカーの技術者だった私が、ODAでトリブバン病院に収められたMRIのメンテナンスのため、カトマンズに滞在していた時のことでした。街にでると流暢な日本語で、子どもたちが物売りに近寄って来たのです。ネパールの民芸品を手にした子どもたちは、首飾りの説明をしたり、値段交渉をしたり、おとな顔負けの商才を発揮していました。簡単な会話ができるくらい日本語を話せたので、聞いてみると、家族は8人。お母さんは畑で働き、お父さんと子どもたちで商売をし、兄弟はみな3年生までしか学校に行かなかったとのことでした。今度は、タメルの食堂でビールを頼むと、また中学生くらいの子どもが持ってくるのです。
日本なら当たり前に学校へ通う年頃の子どもたちが働く姿になんとなく疑問を持ち始めたのはこの頃でした。そんなことがきっかけとなり、子どもに恵まれなかった我々夫婦は、ささやかながらネパールの子どもたちの支援をしようと決めたのです。
広がる支援の輪
個人で始めた支援ですから、たいしたことはできません。ネパールの子どもたちを支援するNGOやユニセフに寄付をすることから始めました。帰国して起業してからは、ロータリークラブの仲間たちが、応援してくれました。学校や病院を建てたり、水道を敷設したり、学用品を配布したり、太陽光発電を備えたり、コンピューターを設置したりと、徐々に支援の量が増えて行きました。我々の活動を知った世界中のロータリークラブからも支援の申し入れが増え、国際ロータリーの中でもネパールへの支援の輪が広がって行きました。
やがて活動の規模が大きくなると、今までのように「良いことだからやってみよう」というような漠然とした支援ではなく、より質の高い効果的な事業にしなければ、支えてくれる仲間たちに申し訳ないという気持ちになり、途上国の開発について研究する決心をしました。そして、人間開発の指導を受けられる早稲田大学人間科学部に入学し、30年ぶりに学び直しをすることになりました。ゼミではJEEF国際事業部の佐藤秀樹さんにもご指導を賜りました。現場での経験豊かな佐藤さんのレクチャーでは、生涯の糧となる実践的なプロジェクトサイクルマネージメントを習得することができました。
「開発の基本的な目標は人々の選択肢を拡大することである。これらの選択肢は原則として、無限に存在し、また移ろいゆくものである。人は時に、所得や成長率のように即時的・同時的に表れることのない成果、つまり、知識へのアクセスの拡大、栄養状態や医療サービスの向上、生計の安定、犯罪や身体的な暴力からの安全の確保、十分な余暇、政治的・文化的自由や地域社会の活動への参加意識などに価値を見出す。開発の目的とは、人々が、長寿で、健康かつ創造的な人生を享受するための環境を創造することなのである。」 マブーブル・ハック 国連開発計画(UNDP)

ラリットプルの小学校で社会の授業
一般的な公立の小学校ですが高学年になると英語で授業が出来ます。男の子はパイロットやお医者さん、女の子は学校の先生やナースを夢見る子がたくさんいます。
先進国の責任
ネパールは世界で最も貧しいとされる地域の一つである南アジアに位置し、地理的にもエネルギー資源にも恵まれず、国際機関や2国間ODAによる50年にわたる開発の歴史があります。しかし、未だ国民の4分の1が、1日$1.25以下で暮らす貧しい国です。さらに、気候変動によりヒマラヤの氷河が融け、氷河湖を形成し、異常気象をきっかけに決壊することで、この20年の間に14回も下流の村に甚大な被害を与えている、地球温暖化の被害国でもあるのです。彼ら彼女たちは何も言いませんが、我々先進国には手を差し伸べる責任があるのだと考えさせられました。
私は、マーブル・ハックの人間開発理論に出会ってからは、ネパールの子どもたちが「元気で長生きし、必要な収入を得、知りたい知識を習得し、自分で選んだ道を歩める創造的な人生をおくる」という人間開発の目標を達成できるように、更に教育開発支援の意欲を高めました。ハックの同士であるアマルティア・センは「教育と国民の健康における改善などが、経済成長が達成されるために経済改革に先行しなければならない」と主張し、国土は小さく資源に乏しい日本が戦後の焼け野原からいち早く発展を遂げたのは、教育の力だと著書「人間の安全保障」のなかで述べています。私はネパールにも多くのチャンスがあると感じています。美しいヒマラヤの山々や、豊かな森の自然環境、多様な伝統文化を生かした観光産業は魅力的です。また生産性の高い農業にも注目しています。国の行方を決めるのはネパールの人たちですが、貧困や人権、地球環境問題は同じ星に住む人間として一緒に取り組むべき課題であると思います。
4月25日、この貧しいネパールに不幸にも大震災が発生しました。このような困難な状況の中、ネパールの子どもたち、そして地球の子どもたちの笑顔の輪が少しでも広がるように、これからも支援を続けて行きたいと思っています。
2015年11、12月号
- ネパールの人間開発1
- 地域の祭は地域の顔
- 熱い夏、 新たに7校21名の若武者が誕生!
- 県立高等学校のワークショップによる教育改革の試み
- JEEFインドネシア事務所 もうひとつの大切な役割“サポーター”
- アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 3
〜自立・継続的な活動を 進める仕掛け編〜 - 特別インタビュー「これからの学びの在り方」
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