ベースライン調査から見る「ハ県の今」
- 2015/10/15
- カテゴリー:JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ハにおける地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト

【事業名】ブータン王国ハ県における地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト
【実施期間】2015年1月~2017年1月
【実施地】ブータン王国ハ県
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN)
JICA草の根プロジェクト開始から約5ヶ月間が経ち、私たちプロジェクトスタッフも、だいぶ地域の人々と打ち解けてきました。これまで、国レベルの運営委員会結成、委員会メンバーのハ県への視察旅行、地域レベルのワーキンググループ結成・ポプジカ谷への研修旅行、そしてベースライン調査と、現地活動を順調に進めてきました。
今回は、ベースライン調査から見えてきた、「ハ県の今」をお伝えしたいと思います。

ベースライン調査から
約1ヶ月間にわたり、ハ県の地元関係者や首都ティンプーのツーリズム関係者を対象に、インタビュー形式でベースライン調査が行われました。調査の目的は、次の通りです。
- 地域の基礎データ収集
- 既存の観光サービスの状況確認
- 関係者の地域観光開発に対する意見収集
- ①〜③を踏まえた上で、今後の地域観光開発に当たっての方向性を提案
前回のブータンにおけるCBST(※) プロジェクト・サイト、ポプジカ谷では、JEEFの現地カウンターパートであるRSPNが、すでに20年以上の歳月をかけ、環境保全活動と地域コミュニティ開発を行ってきました。そのため、CBSTプロジェクト開始時から、膨大な基礎データが存在していました。一方、ハ県でRSPNが活動をするのは今回が初めて。そのため、このようなベースライン調査からプロジェクトを開始する必要があったのです。

地域住民合計約60名に聞き取り調査を実施。若者の多くは首都ティンプーに移住しており、農家に残るのはお年寄りが多かった。
ハ県の産業が年々変化
ハ県事務所と地域住民への聞き取り調査から見えてきたのは、近年、ハ県の産業構成が少しずつ変化してきていることです。伝統的なヤクの遊牧や、蕎麦・小麦・大麦・蕪といった作物の栽培から、より現金収入の大きいジャガイモ栽培や林業に移行する人々が、年々増加しているとのこと。また林業の発展により、過度の森林伐採や、木屑を直接河川に廃棄することによる環境汚染も、地域の間で懸念されていることがわかりました。同時に、ハ県特有の産業を育成すべく、試験的な有機野菜農場の設置、ヤクの乳を利用したゴーダチーズ作り、マスの養殖などの新たな取り組みも行われています。

標高が高いハ県ではヤクの遊牧を生業とする人々も。ヤクの乳製品や、毛を活用した工芸品などが、お土産開発の鍵となりそう。
既存の観光サービス
続いて調査したのは、既存観光サービスの状況。宿泊施設は、老舗の三ツ星ホテル1軒の他、近年オープンした、農家を活用したヘリテージ・ロッジが2軒、ホームステイ提供農家が12軒、キャンプ場が1箇所。しかしながら、マーケティング不足もあり、なかなか思うように客足が伸びていません。
また、ハ県の観光地としてのブランディングや見所の情報も不明確で、ウェブやパンフレットなどの広報ツールも皆無。そのため、ティンプーの旅行会社も、ハ県を積極的に行程に組み入れているケースは稀でした。一方で、興味深い慣習や民話に溢れた村々、伝統的な祭、野花が咲き乱れるハイキングルート、澄んだ河川、ヤク遊牧民の暮らしなど、少しの工夫で魅力的なアトラクションになりうるような、ポテンシャル溢れる観光資源も多く眠っていました。
観光開発に対して人々の意見
今回の調査で最も重視したのは、コミュニティを中心とした、各関係者の観光開発に対する意見収集です。驚いたことに、空港のあるパロや首都ティンプーから近い影響もあり、ハ県の人々は想像以上に観光に関する知識が豊富で、特に雇用拡大や現金収入の向上といった面での、観光開発への期待が大きいことが分かりました。
また、村の伝統的な暮らしや、手付かずの美しい自然が、訪れる人々を魅了する観光資源になることも、多くの村人が理解していました。しかし、現状は、政府がトップダウンの研修やインフラ整備を行うのみで、地域コミュニティとしての自発的な参画は促されておらず、また成果もあまり上がっていません。政府の観光開発計画も、国と県との連携不足や、経験・ノウハウ・予算不足により、ほとんどが実行されていない現状が浮き彫りになりました。

ハの人々の信仰の対象である、三菩薩連山、リスム・ギュム。聞き取り調査中、ほぼ毎日聞いた言葉で、人々の信仰心の厚さがうかがい知れた。
今後の活動にむけて
今回の調査により、ハ県には観光分野のみならず、農業、環境問題などの分野でも、地域に多くの課題やポテンシャルがあることがわかりました。自然と伝統豊かな美しいハ県の原風景が変化してしまう前に、そして、人々がより地域に誇りを持ちながら豊かに生活していくために、私たちCBSTチームが地域に貢献できる要素が多分にあることは確実です。
次のステップは、ベースライン調査結果と、そこから見出したCBST開発の具体的な提案を、県や地域コミュニティの人々とよくすり合わせること。外部からの押し付けではなく、地域からの自発的な活力を引き出すことが、地域開発においては何よりも重要であると肝に銘じ、今後の活動に向け、引き続き邁進していきたいと思います。
文責:松尾茜(JEEF職員)
2015年9、10月号
- アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 2
〜求められる実践者の技能編〜 - 私のアクティブラーニング見聞
- アクティブラーニング型授業は 何を目指しているの?
- 考えるっておもしろいかも!?パート2 第1回 好奇心の種
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