(新米)狩りガールが見る里山
- 2014/07/01
- カテゴリー:特集, 里山イニシアチブ 野生動物と向き合う

文:松本 美乃里 ホールアース自然学校
なぜ狩りガールに?
私は4年前まで、埼玉で広告代理店の営業の仕事に奮闘するOLでした。毎日スーツを着て、地域のお店を回るいわゆる営業マン。その頃から人と話をするのが好きで、仕事にとてもやりがいを感じていました。そんなOLだった私が、数年後に地元の静岡で、それも富士山の麓で、まさか野生動物を捕獲、解体し「命をいただく」ことを仕事としているなんて、その頃は想像もしていませんでした。

わなにかかった鹿
わなにかかった鹿は、「やばい!」という表情をしていて、こちらが近づくと必死に逃げようとします。見回りの際にはすぐに近づかず、しっかりわなが足にかかっているかを確認することが大事。その後、【止めさし=命をとめる】という作業を行います。棒で頭を叩いた後に、頸動脈にナイフを刺して、心臓が動いているうちに血抜きを行います。
転職をきっかけにホールアース自然学校と出会い、仕事をきっかけに偶然出会った狩猟の世界。今思うと必然だったかもしれません。
そんな私が狩猟免許を取得しようと思ったきっかけは、普段から富士山麓で自然ガイドの仕事をしている中で、一部の野生動物が増えすぎたことにより森林が影響を受け、それをなんとかするために奮闘する猟師という存在を知ったことです。実際に狩猟の現場を見せてもらったり、猟師に話を聞く中で、自分自身が『実践者=猟師』として活動することを通して、そこで見たこと、感じたことをより多くの方に伝えたいと想い、思い切って狩猟免許を取得することにしました。
増え続ける富士山麓の鹿による被害
現在、富士山麓では鹿が爆発的に増え続けていて、約30年前に全く姿を見ることがなかったと言われている鹿が、今では富士山麓エリアで約1万8千頭も生息すると推測されています。周りでもよく見かけるようになったという声を聞きますし、実際、私自身も自然ガイドとして現場へ向かう道の途中で、道路に飛び出してくる鹿や牧草を悠然と食べている鹿の群れをよく見かけます。実際に酪農家の方にお話を聞いてみると、牛に与えるつもりだった牧草のほとんどを鹿が食べてしまい、かなりの被害を受け困っているということでした。また、牧草地や田畑などの被害だけでなく、私達が子どもたちを案内している森の中でも鹿による被害は年々増え続けています。木の皮を食べる樹皮剥ぎや林床の笹の葉を食べてしまうことで、木が枯れたり、また、林床に住む生き物たちの生息環境が破壊されることで、森林の生態のバランスが崩れ始めています。

猟友会の方とわなをかけているところ
わなをかけるときのポイントは、獣道(うと)をしっかりと見極めて、比較的新しい足跡がついているところに、わなをかけます。わなを隠すときは土を被せると作動しなくなる可能性があるので、できるだけ葉っぱを使い、小枝などは入れないようにします。
野生動物による被害は、2012年度の農作物被害金額が約229億円、被害面積は約9万7千ヘクタールにのぼり、森林被害面積は約9千ヘクタールと言われているほど、とても深刻な状況です。
なぜ猟師なのか
実際に私自身も里山で暮らすようになり、いろんな問題があることに気づきました。野生動物を知るということは、その山を知り尽くすということ。まさに、里山全体を観ることのできる猟師だからこそわかることや、できること、役割があると思います。
そんな里山にとって貴重な存在の猟師は減少を続けています。私が所属している富士山麓の猟友会でも猟師の数は30年前の1/5にまで減っていて、そのほとんどが60代以上の男性。女性は会員70名中、私を入れてたったの2名。日本の狩猟免許所持者数は1970年代の53万人から減少し続け、2011年には20万人まで減少しています。そして女性猟師はその中でも1%に満たないそうです。

わな猟技術講習会の様子
ここ2年間で10回ほど実施している、わな猟技術講習会での一コマ。現場での実践を学べるということで、農家、酪農家、林業従事者、JA関係、狩猟に興味のある一般の方など30代~70代まで幅広い層の方が積極的に参加してくれました。
一般的には鹿が増えている原因を「天敵である狼が絶滅したから…」とか「猟師が減ったから…」と言われがちですが、単純にそういうことでもないのです。
私自身、狩猟の世界に入るまでは、猟師と言えば、堅物で近づきがたく、怖そうなおじさんたちというイメージがありましたが、実は気さくで優しいおじさんたちなんです。右も左もわからない私達のような若者を受け入れ、とても親切に教えてくれる方が多くて感謝しています。そんなベテラン猟師の方々は日々、「自分たちがやらなきゃ誰がやる」という想いを持って、自分の時間とお金を削って、捕獲してくれています。自分でわなを作ったり、わなをかける場所を変えたり、いろいろと工夫することで、年々一人あたりの捕獲数はむしろ増えているのです。
ただ、もし数年後この技術を持ったベテラン猟師たちがいなくなってしまうとどうなるのだろうか、と心配になります。
だからこそ、今のうちから狩猟の担い手を増やさなければいけないのですが、猟師になることはとてもハードルが高く、自分が猟師になってみて、若い人が狩猟を始めるにも多々問題があることもわかりました。わな猟の場合は縄張りがあるし、毎日見回りすることが必要です。他にもガソリン代やわな代など諸々必要経費も結構かかるので正直大変なのです。そんな状況の中、将来を見据え、私達は自然学校職員として様々な活動を行い始めました。

ホールアースの職場にて解体中
私(自然学校)だからできること
普段の自然ガイドの仕事では、森を案内するときに子どもや大人たちに、自然と人、野生動物の関わりの話や森の現状、そして猟師の役割を伝えることができます。そして、そういった技術を持った人同士をつなげるための中間的組織として、新しい担い手を増やすための狩猟の講習会などもここ数年実施し始めています。
また、自然学校として野生動物の命を最後まで大切にいただき、活用するということもとても重要だと思っています。最近では、剥いだ鹿皮をなめし、それを鹿革クラフトとして参加者に体験してもらうことで、大事に使ってもらう仕組みを考えています。

鹿革クラフト・ペンケース
スタッフ内で試作会を行いました。手作りの楽しさと、その「鹿革として使う鹿」を捕ったのが、顔の見える関係の人=スタッフということで、より大事にしたいという想いを持ってくれました。

鹿革イヤリング
最近友達に教わって鹿革のイヤリングも作りました。女性が身に付けることで、周りに伝えられることもあるはず!と期待しています。
一方で活用しきれていない獣肉についてもなんとか活かしていきたいと思い、もともと食べることに興味があった私は、当初からいかに鹿肉を美味しく調理するか、試行錯誤をしていました。そんな中、ジビエ料理という言葉と出会い、食べることでの関わり方について考えるようになりました。
実は最近ジビエの講師として、野生動物の命を伝える良い機会を頂きました。その場を通じて感じたことは、人に伝えることの難しさ。そして同時に、現場を知っている実践者として話をすることの大切さや意義、発見とともに、大きなやりがいを感じることができました。私は猟師として、捕獲だけでなく食べるということから、「里山の現状」や「命の大切さ」を人に伝えることができ、それをきっかけに人と人をつなげることができるんだと自信になりました。
それぞれの関わり方
里山での野生鳥獣問題を解決するためには、私たち自身が自然と人のつながりを考え、将来にわたって継続的に野生動物たちとの関わり方を見直すことが必要ではないでしょうか。
みなさんは、猟師という立場だけではなく、食べることでの関わり方もできます。捕獲する人、管理する人、食べる人、そしてそれを広める人など、いろんな立場の人がいて、それぞれの役割を果たす中で、この問題が少しでも解決の方向に向かっていくと信じています。そんなことを願いながら、私達はこれからも自然学校としてできること、「伝える」「繋げる」をテーマに、里山での活動に積極的に取り組んでいきたいと思います。

ジビエと狩猟講習会@東京
実際に猟師の話(しかも女性)を聞く機会はないので、新鮮だったようです。特に実際の現場での捕獲の様子や地元の猟師さんとのやりとりの話、講習会で持ってきた本物のわなをかけてみる実演は好評でした。
里山保全活動の普及啓発のために、「第二回 狩猟サミット」を10/25~10/27に静岡県で行います。詳しくは活動ブログにて。ブログ:自然学校的野生鳥獣対策のススメ
2014年7、8月号
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