機関誌「地球のこども」 Child of the earth

企業の責任における5つのステップ 2016.06.20

文:篠 健司(パタゴニア日本支社)

パタゴニアは、創業者のイヴォン・シュイナードが、クライマーである自身や仲間のためにギアを作ることで会社が始まりました。社員自身が多くの時間を森や川、海で過ごし、自然環境が壊されていく様を自分の目で見てきました。以来ずっと、「企業の責任とは何か?」という課題と格闘し、「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というミッション・ステートメント(存在意義)を礎に努力と失敗を重ねてきたのがパタゴニアです。

そして、デイビッド・ブラウワー(元シェラクラブ理事長)が「死んだ地球からはビジネスは生まれない」と言ったように、「企業の責任とは根本的に資源元に対して責任がある。健康な地球がなければ、株主も、顧客も、社員も存在しない」という考えに至りました。

また、近年は、企業がその事業活動により顧客、従業員、地域社会、環境に与える影響に対して責任をもつよう促進する包括的な企業活動を企業の責任ととらえるようになりました。その責任には、国際的な労働や人権に関する基準も含まれるものとして、原材料から製品寿命に至るまでのサプライチェーン全体を通して、パタゴニア製品が安全で公正かつ合法、そして人道的な条件のもとに製造されていることを保証する取り組みを推進しています。パタゴニアではその過程を5つの段階に分けています。

Photo:Theodore Kaye

Photo:Theodore Kaye

1.吟味された生活をすること

人間が引き起こす環境へのダメージのほとんどは、無関心が原因です。問題を直視せず、行動をしたくないがために学ぶことを拒否する場合、無関心は意図的な悪意となります。

1990年代初め、私たちは4つの主要素材(コットン、ウール、ポリエステル、ナイロン)が環境にどのような悪影響を及ぼすかについて知識がなかったため、詳細な環境アセスメントを実施しました。その結果、慣行農法によるコットンは4素材の中で最も悪影響を及ぼしているという事実を学びました。それ以来、多くの疑問を投げかけ、リサイクル・ポリエステル、植物由来のウエットスーツ、フェアトレード認証、修理の奨励などさらに多くの環境的・社会的取り組みにつなげてきました。

2.自己の行動を正すこと

環境負荷がわかったなら、それを減らす努力をすること。そして、減らすことが可能なら、実践しなくてはなりません。

1990年代半ば、栽培量が限られていたオーガニック・コットンは入手が困難で、加工も容易ではありませんでした。そのため、切り替えを成功させるためには、原料調達、紡績などすべての行程を再構築しなければなりませんでした。それは、長年かけて2014年にローンチした、強制給餌やライブ・プラッキング(生きたまま羽毛採取)が行われた鳥から採取したダウンでないことを追跡するために独自に構築したトレーサブル・ダウンも同じです。

また、生産部門のない日本支社では、使用するエネルギーについての負荷を学び、再生可能エネルギーへの移行を目指しています。

Photo:Rob Naughter

Photo:Rob Naughter

3.罪を償うこと

どんな企業であっても、事業を通じて何らかの廃棄物や汚染の原因を出すことは避けられません。

アウトドアのシェル素材に欠かせない、小雨や雪を弾くDWR(耐久性撥水)加工は、防水性/透湿性バリアを組み合わせることでシェル表面からの水分の浸透を防ぎ、内側の蒸気を外へ発散します。しかし、パタゴニアも含めて業界で長年使われてきた長鎖(C–8)フッ化炭素ベースのDWRは、非常に高い効率性と耐久性があるものの、その副生成物は有毒で難分解性のため、環境中から消滅せず、私たちの基準では容認できないものでした。

そのためこの10年間、パタゴニアはあらゆる代替案を調査、テストしてきました。現在も解決策を模索する一方で、現段階で最善の選択肢として短鎖(C–6)DWRに切り替え、2016年春シーズンの製品にはC–8は一切使用されていません。

一方で、私たちは自らの罪を償わなければなりません。そこでパタゴニアでは、1985年から自主的な「地球税」という形で、売上の1%以上を自然環境の保護回復活動に取り組む草の根グループに寄付してきました。

Photo:Tim Davis

Photo:Tim Davis

4.市民が主役の民主主義を支援すること

過去の経験から、情熱を持って問題に取り組む人々による小規模な団体にも大きな影響力を持つことは可能であると私たちは考えています。直接行動する課題を持ち、自然環境を保護/回復させようとするキャンペーンに取り組んでいるグループや、生物の生息域を守ろうとする地域に根差したグループに対して、資金提供や現物支給などを行ってきました。

環境保護グループに活動スキルやノウハウを学んでもらうことを目的に、公益財団法人キープ協会の施設を拠点として、2年に一度開催している「草の根活動家のためのツール会議」も私たちの支援プログラムのひとつです。

5.他の企業に影響を与えること

環境に対して責任を負う新しい方法を見つけた企業には、その知識を広める義務があると考え、パタゴニアは様々なビジネス・ネットワークの創設に関わってきました。共同であれば包括的により早く改善することができます。下記はその一例です。

1% for the Planet
売上の1%を健全な地球の維持に取り組む非営利パートナーに寄付する企業ネットワーク
コンサベーション・アライアンス
アウトドア関連企業が参加する環境保護基金
公正労働協会
労働者の人権保護、就労環境の改善に向けて、ブランドや工場を含む複数の利害関係者と共同で取り組む非営利組織
サステナブル・アパレル・コーリション
業界共通の環境的/社会的影響の測定ツールを開発することを目的に、アパレル&フットウェア産業の主要ブランドが結成した
グループ
テキスタイル・エクスチェンジ
農場や原料供給業者からブランド、小売業者、さらに消費者に至るまでのバリューチェーン全体のベストプラクティスを共有するための非営利組織

こうした環境・社会的な取り組みの積み重ねによって販売に至るパタゴニア製品は、一般ユーザーだけでなく、「プロセールス・プログラム」を通じて、各アウトドアスポーツのガイドや自然保護を実践しているプロフェッショナルの皆様に使っていただけることを心から誇りに思っています。

パタゴニア篠健司

篠 健司(しの けんじ)

パタゴニア日本支社/環境プログラム・ディレクター。1988年同社に入社。広報、店舗運営、物流部門を経て2004年より環境担当として助成金、非資金的支援を通じた環境団体の支援等を担当。その他に1% FOR THE PLANET日本窓口、コンサベーション・アライアンス・ジャパン理事、日本自然保護協会理事。

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