住民の意識改革から始まった国立公園保全 –これまでの軌跡–

【事業名】JICA草の根技術協力事業 インドネシア・グヌン・ハリムン・サラック国立公園における持続可能な観光開発を軸とした住民参加型環境保全プロジェクト
【実施期間】2014年6月~2017年5月
【実施地】インドネシア共和国グヌン・ハリムン・サラック国立公園
【協力】独立行政法人国際協力機構(JICA)
【パートナー団体】環境林業省自然保護総局
どんなところで活動しているの?
事業実施地のグヌン・ハリムン・サラック国立公園はジャワ島西部に位置し、首都ジャカルタから最も近い国立公園のひとつです。首都圏の水源でもある熱帯雨林にはジャワクマタカやワウワウテナガザル、ヒョウなどの絶滅危惧種が生息し、水源維持や生物多様性の観点からも非常に重要な国立公園と位置づけられています。国立公園内に数ある村のうち最奥地にあるマラサリ村が活動の舞台です。

プロジェクト開始前の住民にとって、この見事な棚田は観光資源とは考えられていませんでした。
きっかけは住民からの声
JEEFでは2002年よりインドネシア事務所を開設し、これまでにも国内各地で様々な環境教育活動を実施してきました。特にこの国立公園は事務所から距離が近いことから数多くの事業経験、公園内の村々との強いネットワークがあり、JEEFインドネシア事務所にとってホームグラウンドのような地域でもあります。なかでもマラサリ村は、豊かな原生林と伝統文化に根ざした人々の暮らしとが、共存している非常に魅力的な地域です。
そのマラサリ村の住民から「エコツーリズムで村おこしをしたい」という要望を受けたのが2011年の1月。村人の夢をJEEFと一緒に叶えられないだろうかと期待が膨らみ、事業化計画を練ることにしたのですが…。
インフラ整備=観光成立?
住民の話を詳しく聞いてみると、どうも話が変な方向に向かっていることに気づきました。「観光客を誘致するには豪華なホテルが必要だ」「プールやアスレチックなどを用意すれば多くの観光客で賑わうだろう」「舗装道路を拡張し自動車のアクセスを改善できれば黙っていても観光客が押し寄せる」こんな要望を耳にして、大きな不安を覚えたのでした。
あらためて話を聞くと住民の計画はインフラ整備であり、インフラが整えば観光が成立すると考えており、その資金確保のためにJEEFと協力したい、というのが本音だったようです。
意識変革とプロジェクト進捗
住民の計画は、JEEFとして賛同できるものではありませんでした。自然破壊を前提にした観光開発は「エコツーリズム」ではないことの説明からはじめ、豊かな自然環境そのものが観光資源であること、伝統的な村の暮らしを見せることも観光資源になることなど、協議を重ね、住民の意識変革に務めながら3年を掛けてプロジェクト実施の可能性を検討したのでした。
「インフラ整備=観光開発」ではないことを理解した住民の反応は、非常に頼もしいものでした。今ある暮らしそのものが観光資源になることを理解した住民からは、里山での農作業体験や林産物加工の体験学習などのアイデアが次々と出てきました。また、都会の観光ガイドを雇用するのではなく、地域をよく知る村人自身が観光客を案内することも住民から提案され、JEEFとしてマラサリ村のエコツアー開発に関わっていく決意も固まりました。

原生林トレッキングで活躍する住民インタープリター
2014年のプロジェクト開始以降は、①村立の観光事業組合の設立、②村の資源を活かしたツアープログラムの立案、③ツアーガイドの養成、④ホームステイ運営のための研修、⑤里山産物を用いたお土産開発、⑥試験ツアーの開催、などを実施しています。

臼を用いた米搗き体験は、多くの観光客に好評です。
プロジェクト開始から1年半を経過し、観光客が来訪 するようになりました。住民もエコツーリズム開発に自信を持ち始めています。今後は観光客へのプロモーション実施と共に、ツアー開催により恩恵を受ける住民増加に力を入れていきます。
文責:矢田誠(JEEF職員)
2016年5、6月号
- 企業の責任における5つのステップ
- ごみ問題に対する住民意識改善の難しさを感じた3年間
- アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために
〜これから高まるニーズ編〜 - 環境スポーツイベントを通じたCSR
- 住民の意識改革から始まった国立公園保全 –これまでの軌跡–
- 考えるっておもしろいかも!?パート2:第4回 学びの環境を考える 1(教室編)
- 宇宙から見た地球
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