機関誌「地球のこども」 Child of the earth

自然体験型環境教育の資格・認定 2013.12.27

文:太田原 康志 NPO法人自然体験活動推進協議会

「今年こそ、資格をとろう!」と思い立ち、がんばって資格をとれば、学生の皆さんは就職に有利になって採用間違いなし。会社で働いているあなたは昇進・昇給間違いなし、転職を考えている人も即採用。シニア世代の人たちにとっては、充実したバラ色のセカンドライフを過ごせます。

おいおい、それはちょっと言い過ぎだろ! という声が聞こえてきそうですね。これらが本当か嘘かは皆さんの判断にお任せするとして、「資格取得の目的を達成した人に取得して良かったと思うこと」を聞いてみると、そのトップ3は次のようです。

資格を取得して 良かったと思うことBest3

  • 自分の能力や経験を客観的に把握することができ、学んだ分野においては自信をもって取り組めるようになった。
  • 勉強する時間を捻出しなければならないため、自分のライフスタイルを見直すきっかけになると同時に時間管理能力が身についた。
  • 講習会や勉強会などに参加することで、その講師や参加者などの様々な仲間たちとの交流や情報交換ができた。

 

これらは一般的に言われていることですが、私たちのような環境教育や自然体験の分野に関わっている者にとっては実際に活動を進めていく上で、特に3つめの 様々な仲間たちとの交流や情報交換ができることは大切な財産になります。自然体験型環境教育の資格に関わる講座はフィールドワークなどの実習を重視した内 容が多いので、必然的に講師や参加者同士の交流が深まります。同じ興味関心をもつ仲間たちと学習過程を共に楽しむことができるのもこの分野の大きな特徴だ と思いますので、まずは積極的にこういった講座に参加してみてはどうでしょうか。

どんな資格に挑戦しよう?

挑戦する資格の選び方は人それぞれです。あれこれ考えず「好き・嫌い」「興味ある・なし」という自分の直感的な判断 でまず自分の肌に合うものにこだわって選んでみるのもいいと思います。そして、学習する過程で自分には合わないと思ったら我慢しすぎず、さっさと見切って しまいましょう。

そうは言ってもじっくり考えたい! という人には、資格取得という観点から考えると、自分の時間軸にそって次の3つの視点で自問自答しながら選んでみるとよいのではないでしょうか。

3つの視点で自問自答

1.これまでの時間
これまで自分は何をしてきたのか。これまでの自分の経験や興味を活かすのか。これまでの経験とは関係なく、全く新しいことに挑戦するのか。
2.人生の節目
まれた、子育てが一段落した、様々な出会い、他にも心機一転するような機会など、人それぞれには人生の節目が必ずあります。どの節目に自分が立っているのか、どの節目を機に資格を活かすのか。
3.残された時間
自分にとって残された時間はどれだけか。これは必ずしも生死に関わることではなく、先ほどの人生の節目を迎えるまでの時間、ひとつの節目を超えて次の節目までの時間であったりします。

今回のテーマから外れてしまうので詳細は省きますが、あまり考えすぎて自分探しの罠にはまらないように気をつけてください。

資格がないと活動ができない!?

環境教育や自然体験の分野に初めて関わりをもち始めた人たちから、「環境教育や自然体験の分野で活動や指導をするために、何かの資格を持っている必要があ るのでしょうか?」と尋ねられる場合があります。そんな時はいつも「心配することはありません。無資格で大丈夫ですよ(笑)」とお答えしています。ただ し、この分野でも指導する場合においては、ある一定の技術検定に合格していないとその指導ができないものもありますが、一般的には環境教育や自然体験の分 野で活動する場合に必ずもっていなければならない、というような資格があるわけではありません。けれども、資格はその人の学習の証しであり、取得するまで のプロセスで学んだ事も含めて、持っていればいろんな場面で役に立ちます。もちろん、自然学校や環境教育関係の仕事に就く場合には資格所有者が有利になる こともあります。

どんな講座や 資格・認定制度があるの?

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何事も独学で学ぶこともよいのですが、自分の興味関心のある資格があれば、まずは資格取得を目指して講座に参加し学習するのもひとつの手段ではないでしょうか。

環境教育や自然体験の分野に関連する講座や資格はこの分野の特徴として大きく2つに分類できます(図1の縦軸)。ひとつは、子どもや大人を対象にした自然ガイドやキャンプなどのように「人と自然を仲介する活動を目的にしたもの」。もうひとつは、ビオトープや樹木の手入れ・管理などの植物や生態系など「自然に直接働きかけることを目的にしたもの」です。自然体験型環境教育の資格の多くは前者の「人と自然を仲介することを目的にしたもの」に分類されます。

そして、さらにもうひとつこの分野の特徴として分類する際の軸が考えられます(図1の横軸)。この分野では各団体が自分たちの特色を生かしながら様々な活動を行っており、そのような民間の資格や認定制度にもその特色が表れているものが多いのも特徴のひとつです。講座や資格取得時に学ぶ知識やスキルが、「比較的幅広く、総合的」な内容であるものと、それぞれの団体の「特色を生かした専門的」な内容のものとに分けることができます。

主な資格や認定制度

図1のうち、ここでは主に自然体験型環境教育に関わる5つの 資格・登録制度や講習会について紹介します。

環境カウンセラー

環境カウンセラーとは環境省が実施している登録制度です。市民活動や事業活動の中での環境保全に関する取組について豊富な実績や経験を有する等、一定の要 件を備える者について、申請に基づき審査を行い「環境カウンセラー登録簿」に登録されます。その登録簿はインターネットを通じて広く一般に公表され、環境 保全に関する取組や活動を行おうとしている各主体に対して、環境カウンセラーの連絡先や専門分野などの情報が提供されることになります。 環境カウンセラーに期待される役割は、自らの経験を生かして積極的に環境保全活動に取組み、地域の環境パートナーシップの形成等に寄与していくことにあり ます。

自然学校指導者養成講座

「全国の自然学校で活躍するプロになりませんか?」をキャッチフレーズに、自然を舞台に活躍する自然学校の指導者を養成する、日本環境教フォーラムによる 講座です。各地域やさまざまな分野で設立されている各種自然学校にて、即戦力として実践的に力を発揮できるプロの指導者を養成しています。ほぼ1年を通じ て、講義・実習・インターン等のカリキュラムを習得したのち「自然学校指導者」として認定されます。

ネイチャーゲーム指導員

ネイチャーゲームは、いろいろなゲームを通して自然の不思議や仕組みを学び、自然と自分が一体であることに気づくことを目的としています。自然に関する特 別な知識がなくても、豊かな自然の持つさまざまな表情を楽しむことができます。 ネイチャーゲーム指導員とは、ネイチャーゲーム活動を通して身近な子どもや大人に自然を案内する人であり、下記の4種類があります。これらの資格は指導力 のレベルを示すものではなく、資格に応じて担う役割を示すものであり、それぞれが活動したい分野に応じて必要な資格を選択し取得するものです。

リーダー
子どもたちや大人を自然の中へ案内します。
コーディネーター
ネイチャーゲームの理念・手法・ネットワークを活用した活動を通して地域づくりを行います。
インストラクター
地域における講師活動を通して、ネイチャーゲームの普及を行います。
トレーナー
ネイチャーゲームの指導者養成・研修における講師活動を通して、人材育成を行います。

LEAF(Learning About Forest)インストラクター

LEAFは北欧の森林業界が森林産業の普及啓発のために開発されたプログラムで、子どもたちの環境意識の向上と環境教育に関わる教師の育成を目的としてい ます。プログラムの実践を通じて、文化的、生態学的、社会的、経済学的に関わっている森林の役割すべてについて考え、それらのバランスを理解することがで きます。LEAFは、活動を中心とした、参加型で実際的な方法で、世界中の子どもたちに森林とその価値についての環境教育を行うことを目的としています。 LEAFインストラクターには次の2種があります。

ナショナルインストラクター
日本国内にてローカルインストラクターを支援するとともにLEAFプログラムを幅広く展開しています。運営委員としてLEAFの運営に関わっています。
ローカルインストラクター
日本国内の限られた地域を拠点としてLEAFプログラムをインストラクターとして実施しています。活動は通常ナショナルインストラクターとともに行います。

自然体験活動指導者 (CONE指導者/NEAL指導者)

自然体験活動には、キャンプ、登山、ハイキング、カヤック、自然観察、農林漁業体験など、多様なフィールドで様々な活動があります。自然体験活動指導者は、自然の中で感性を磨いたり、土地の伝統文化や食文化に触れたりと、専門的な知識と技術をもって自然体験活動の普及や振興の推進役として活躍しています。自然体験活動指導者になると、様々なフィールドで自然の素晴らしさを伝えることができるとともに、全国の指導者が集う研修会や交流会に参加でき、活動団体や専門分野を超えたネットワークづくりや情報交換を行えます。 自然体験活動指導者においては、現在は自然体験活動推進協議会(CONE)が認定するCONE指導者制度があります。今後はNEAL指導者がまだ試行段階ですが(平成26年度より本格実施)新しい資格制度として注目されています。この資格制度は自然体験活動推進協議会と国立青少年教育振興機構による、まさに民と官が共に創設したナショナルスタンダードをめざした資格制度で、次の3種があります。

自然体験活動指導者(NEALリーダー)
自然体験の特定の活動プログラムの指導にあたる。
自然体験活動上級指導者(NEALインストラクター)
自然体験活動プログラムの企画・実施者となるとともに、NEALリーダーを指導する。
自然体験活動総括指導者(NEALコーディネーター)
自然体験活動事業の企画・実施の総括責任者となるとともに、NEALリーダー及びNEALインストラクターを指導する。

資格を生かすためのヒント

資格を取得すること、講座を受講することが目的化してしまいがちですが、資格取得は到達点ではなく、それが出発点だという姿勢を持ち続けることが必要だ、ということはよく話題としてでてきます。資格を生かすための王道はありませんが、大切だと思われる4つのヒントを挙げておきます。

1.まずは試してみる
とにかくまずは関連する現場に出向き、学んだことを試してみましょう。いきなり指導者や講師ではなくても、関連する団体に連絡をとってサポート役や援助者として関わってみるとよいと思います。そこで、わからないこと、不思議に思うこと、疑問に思うことをどんどん洗い出してしまいましょう。
2.自分のホームグラウンドを持つ
資格取得や講座を受講したから万全というわけではありませんね。現場に出ると、わからないことや疑問に思うことがたくさんあるはずです。自分の知識やスキルを見直したり、磨いたりできるフィールドを自分のホームグラウンドとして持つことをお薦めします。そこだったら自分の庭のようになんでもわかっているという場を作っておくと、他のフィールドに行ったときにも、そことの違いを知ることでさらに理解が深まります。
3.自分の得意分野をひとつ持つ
何事においても習得のコツのひとつとして、その分野の中で何でもよいので自分の得意なことをまずひとつ持つことが大切だと言われます。ある関西在住の方は自然観察に関する資格取得後、フィールドでの体験を重ねるごとに昆虫に関心を持ち始め、今ではちょっとした昆虫博士として幼稚園や小学校などで子どもたちと接しています。解説する内容は昆虫の生態だけではなく、その昆虫たちを取り巻く自然環境についてもふれられています。このように得意分野として少し深いものをひとつ持っていれば、そこから話題やアイデアなどを広げることもできますし、その人の特徴としてアピールすることもできるようになります。
4.仲間との繋がりを大切にする
全ての資格や講座には当てはまらないかもしれませんが、資格取得に至るまで、そして、取得後においても同じ興味関心をもつ仲間と繋がりを持ち、お互いに情報を共有したり切磋琢磨していくことも大切だと思います。
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太田原 康志(おおたはら やすし) 1963年生まれ。民間IT企業にて製品開発、マーケティングの業務を長年行ってきた。10年前の2003年にNPO法人自然体験活動推進協議会に入り、現在、事務局長。誰でも楽しく安心して自然体験活動ができる仕組みづくりを展開中。

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