JEEFインドネシア これまでの歩みと現在の活動

JEEFでは日本国内での環境教育の実践だけではなく、アジア各国のNGOと協力し環境教育の普及・啓発に取り組んできました。その中でもインドネシアは、2002年より現地に事務所を設立し、JEEF海外活動の大きな拠点として活動を続けています。
今回の特集では、インドネシア事務所長 矢田誠がインドネシアでのJEEFの取り組みについてご紹介します。
1996年 各国NGOと意気投合
JEEFが東南アジア各国との連携を強める大きなきっかけになったのは、1996年にタイで開催された東南アジア環境教育ミーティング。ここに日本のNGO代表としてJEEFメンバーが参加し、各国のNGOと意気投合したことから様々な連携が始まることになりました。参加したNGOのなかでも特に積極的だったのが、インドネシアのNGO団。折しも国内で環境教育に携わる人材のネットワーク構築を課題としていたインドネシアのNGOにとって、清里ミーティングのような市民の集いからスタートしているJEEFは、理想的な形に写ったようでした。
1997年 インドネシア環境教育ネットワーク 組織強化をサポート
インドネシアの環境NGOの盛り上がりに応えるために、日本野鳥の会、オイスカとJEEFがチームとなって、インドネシアでの環境教育ナショナル・ミーティングの開催に立ち会うことになったのは1997年。まだ誕生して間もなかった28の個人・団体からなる「インドネシア環境教育ネットワーク(JPL)」の組織強化をサポートしたのでした。その設立から既に15年以上が経ち、現在、JPLは会員数180を超える国内最大の環境教育活動のネットワークとなっています。
2001年 日本政府によるODA地方電化プロジェクトに参加
日イ間で草の根の交流を続けてきたJEEFが、インドネシアの地で職員を派遣して事業を開始することになったのは2001年。当時、日本政府による国際開発援助(ODA)で実施されていた、マイクロ水力発電施設を用いた地方電化のプロジェクトに、NGOとして参加したことが契機になっています。ただ単に箱モノとしての発電施設を建設するのではなく、それを利用する人々が施設の維持管理を行い、電力の源となる水源の森を保全するという仕組みを構築するべく、ジャワ島西部中山間地で実施されていたプロジェクトのメンバーに加わったのでした。日本人が直接、地域住民と手を携えてODA事業を実現させたというこの経験は、政府やJEEFにとって大きな自信となり、現在のような活動展開に繋がっていきます。
現在 地域住民による環境保全と自然資源活用の両立
広大な国土のもと、世界第3位の森林面積や豊かな海洋資源、世界でも有数の生物多様性など、その自然環境の素晴らしさを誇るインドネシアではありますが、一方で、近年の経済成長に伴い、国内各地で発生している様々な環境問題にも目を向けなくてはなりません。大規模な森林の伐採とプランテーション開拓のための火入れが、隣国シンガポールやマレーシアに深刻な煙害をもたらしたという報道なども、みなさんの記憶に新しいところでしょう。
JEEFのインドネシアでの活動は、環境問題の状況把握のための調査研究やデータベースの作成など、主に政府機関や研修者と協働した調査業務もありますが、その活動の大半が自然保護区など現在も豊かな自然環境が残されている地域での、地域住民による環境保全活動に関わるものが5割以上を占めています。特に最近力を注いでいる分野は、環境保全と在来の自然資源を有効活用した持続可能な社会づくりのための活動です。インドネシアでは、その豊かな自然環境を後世に残すため様々な自然保護の制度がありますが、省庁間の連携の不備もあり、自然保護が優先されるべき地域でのプランテーション開発や大規模な違法伐採などが行われていることも認めざるを得ない事実です。
こうした大規模な環境破壊は、もちろん資本家の手によって進められるものですが、労働者として雇用され実際の現場で働いているのは、その地域に暮らす住民達です。地域住民らにとって、プランテーションの開拓に伴う賃労働、あるいは原生林の森林伐採から得られる収入は、非常に魅力的な収入源となります。しかし、収入源の多くを村落周辺の里山やその先に広がる奥山からの林産物に頼っている、中山間地の住民達にとって、その生活の基盤を切り崩してしまうことは、長期的にみると自らの手で生活環境を破壊し、これまでの生活をより困難にしてしまいます。このような課題に対し、JEEFではアグロフォレストリーの導入や、林産物の開発などを通して、地域の森林環境を保全しながら収入向上につなげる試みを実施しています。

熱帯雨林の保全と地域の人々の生活の両立を目指して生姜湯『GULAHE』を開発
国立公園や野生生物保護区の設立のために、かねてから農業で生計を立ててきた住民が立ち退きを迫られたり、稲作や畑作を制限されることとなり、大勢の住民が現金収入の手段を失った。そこでJEEFは、住民が現金収入を獲得できるように、森林の生態系に悪影響を及ぼさない範囲で、地域に自生するサトウヤシと地域特産の生姜から、製品として「グラへ」という生姜湯の開発に着手している


Gulahe(グラへ)

READYFOR?での支援募集
地産のヤシ砂糖を使った収入向上プロジェクトでは、インターネットを通じた支援募集の「クラウドファンディング」を通じて、一般市民の皆さんからの資金募集も行い、ジャワ島中山間地での活動と日本とを繋げることを試みました。ご支援頂いた皆さまに感謝申し上げます。
他地域への波及効果
JEEFでは2004年以降、地域住民による環境保全と収入確保の両立の試みに取り組むことで、国内数地点での持続可能な開発の先例を実現することができています。それら活動の幾つかはインドネシア政府によってモデル事業として承認され、他地域へ波及し始めています。
また、これまでのJEEFの取り組みを評価くださった日系企業には、企業によるCSR活動として協働する機会をいただき、環境保全活動としてだけでなく、地域の人達の福祉向上も視野に収めた持続的な開発に向けた教育活動としても広がりを見せ始めています。

トヨタ車体グループとの協働によるマングローブ植林事業
エビ養殖池の造成によって破壊されたジャカルタ湾のマングローブ林を回復させるため、地域住民の参加によって100haの土地に5年間かけて10万本の植林を行う

大塚製薬の現地系列会社との協働による環境保全活動
「Otsuka環境保全モデル村」事業として、工場周辺の地域住民による植林と林産物を利用した収入向上活動を実施中
経済発展の重要性と共に、その貴重な自然環境の保全がますます重要性を増しているインドネシアでの活動に、JEEF会員の皆様のご理解を得られることを願っております。
2013年9月号
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