機関誌「地球のこども」 Child of the earth

シニア世代は人材の宝庫(大阪シニア自然大学) 2013.10.08

文:齊藤 隆(NPO法人 シニア自然大学校)

目指してきたもの

私たちのシニア自然大学が「自然と人とを大切に」モットーにして、自然への関心や学びへの啓発、それを社会に広めて行くリーダーの養成を目指し創立してから今年でちょうど20周年目になります。私たちがシニア世代を対象にしてきたのは、戦中戦後を生き抜き、社会の発展に邁進してきた人たちがその役割を終え、地域や家庭へ戻る時期に当たりました。丁度高度成長期を駆け抜けたときでいろんな社会問題が顕在化していました。自然環境についても、この素晴らしい地球環境はこれからも持続可能であるかなど、多くの問題が提起されてきました。

また、多くのシニア世代が自由な時間を手に入れました。体力・気力・知力・経験・時間を溢れ持つこの世代は大きな人材の宝庫で、同時に、その人々は「これから自己の人生をより豊かなものにしたい」、「今まで出来なかった若き頃の夢や楽しみを追い求めたい」、「今までとは違った世界を知りたい」、「自分の好きなことをもっと学びたい」、「生き甲斐として社会の役立ちたい」という望みを強く持っていました。

私たちはこのニーズに答え、また、優れた人材として自然環境の保全に役立ってもらい、自身が持つ叡智を役立て、次世代のために貢献していただくことは、社会にとって大きなプラスであると考え、活動を続けています。また、この世代は日常の仕事に全力を注いできたために、それから解放されると自分の居場所に戸惑い、何をするかに惑い、付き合う仲間もいないということで困惑してしまいます。シニア自然大学校はこういった人に自然環境やその保全を主体に生涯学習の場を。また、新しい同じ志の仲間を得る場を。自然との触れ合いの中で健康を維持する場を提供してきました。

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朝日親子自然環境教室 
朝日新聞社とのコラボで親子を対象に、年間6回で自然環境を現場で学ぶ教室
そのうちの奈良県生駒市の棚田で、里山体験と農事芋ほり体験の様子 

手を挙げれば誰でもリーダー

過去のしがらみから離れ、全く新しい仲間とともに一番したいこと、一番生き甲斐を感じること(それは自分にしか分かりません)に目的をもって歩む。それが残りの生涯を楽しく生き生きとしたものにしていきます。また、シニア自然大学校の理念(人と自然を大切に)の下に協力し合って活動するようになります。シニア自然大学校は全員が正会員で構成されています。そのため全員が、「シニア自然大学校は自分たちのものである」という意識が強く、それが求心力となり、一つの方向に向かう活動の源泉の一つとなっています。

シニア自然大学校は「学習活動」、「研究・調査活動」、「各種の社会貢献活動」、「地域活動」にそれぞれの組織は出来ておりますが、入り口である「講座部本科」、「シテイカレッジ本科」以外は理念に沿った活動であれば各人の活動はフリーであり、手を挙げれば誰でも一つの活動のリーダーとなって賛同者とともに活動できます。そこで縦・横のつながりを重視した同心円を描いたような組織体制にしています。永年縦社会に組み込まれてきたシニア世代にとっては伸び伸びとした生き甲斐ある組織を感じているようです。そしてリーダーも適度に交代し、養成されるようになりました。いろんな活動や学習、子どもたちとの触れ合いを通して、次世代に対するシニアの責務も自分のものとして理解し、それを果たそうと努めるようになりました。

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東大阪市の市民向けの緑化活動のリーダー養成講座の実習講座 
公園の花壇でリーダー養成講座のシニアが、草花の苗・種を植えて緑化活動の実地体験の様子

20年を経て起る問題

20年の歳月を経て起る問題として一番怖いのは、20年間の成功体験が染み付くことです。20年間それなりに発展してきたことから、現状に安住する傾向が出てきます。もう一つは2000人に達しようとする会員を擁するために、すべてが内向き思考に流れやすいことです。外への発信や働きかけが弱くなってきます。新しいときの流れ、考え方の変化に敏感に対応する力が弱まることを危惧しています。学習カリキュラムや各種事業も、世の中の需要を反映出来ているか模索しています。また、生涯の居場所のため人材の新陳代謝が遅れ、組織の経年化、硬直化が見られるのではないかと思っています。現在これからの進路を見据えての戦略を探り、練っているところです。こうしたことを踏まえて、今後の展開については会員のための組織というだけでなく、世間にもっと開かれた公益性の高い、その活動が広く社会の賛同と支援が得られるようなものとしていきたいと思います。その為に認定NPOの資格取得を目指しています。

シニア自然大学校のこれからの在り方

我々の目指すものは社会にとっていつまでも大切なものであると確信していますから、これが全国にネットワークとして広がっていけばと思っています。シニア世代のために。持続可能な社会のために。環境問題だけでなく、自然と深い関係にある文化・歴史なども含めた、より高度な生涯学習の場であり、生涯に亘り地域や子どもたちに対して社会貢献していく場であり、生涯仲間とともに居る場として機能していきたいものです。そこに行政はじめ各種のカレッジやカルチャーセンターとは違う目標と価値を持ったものを築き上げて行きます。

シニア自然大学校は、シニアの人がいくつになっても向上し、人生の最高の境地で「皆さん、さよなら」といえるような場、生き甲斐で充実させる場、何よりも人生で一番楽しいときを送れる場を作っていくことを最も大切なことだと思っています。

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齊藤 隆(さいとう たかし)

1935年東京市に生まれる。
1958年大学卒業後金融機関に就職。2002年シニア自然大学に入る。2005年より年シニア自然大学理事副代表に就任。2007年シニア自然大学校代表理事となり今日に至る。趣味は学生時代は相撲部(勝ち名乗り受けたことなしの戦績)。50代~70代はじめまでは山歩き。70代半ばからは時代劇(テレビドラマ、小説とも)

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