機関誌「地球のこども」 Child of the earth

サイエンス・オブ・ワンダーとセンス・オブ・ワンダーの 響きあいとハーモニーで環境教育を 2014.05.01

ニシカワトンボ写真素材-フォトライブラリー

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環境教育における今の話題の一つが、感性(センス)が大切なのか、科学(サイエンス)が重要なのかを問う声です。それは近年、環境教育のインタープリテーションの中で、科学が自然体験活動の表舞台から退潮進行状況にあり、感性の偏重傾向が継続していることに背景があります。

センス・オブ・ワンダーとサイエンス・オブ・ワンダー

夏の日差しがまぶしい田んぼ。僕と10才の小学生の子どもたちはカワトンボ(ニシカワトンボ)を観ていました。先日、採ったカワトンボの目のでかさと緑色の美しさに、子どもたちは驚いていました。だって顔のほとんどが大きなサングラスのような目でできているのですから。なぜだろうか? の声が挙がったカワトンボ。子どもたちには田んぼからナキイナゴのジャジャジャと足と羽をこすらす声が聞こえてきます。周りの森からはアブラゼミの合唱がやってきます。カワトンボは小川の上を飛んでいきます。でも、田んぼには決して飛んでいきません。小川の上だけを飛びます。しかも、小川のある決まった場所に来ると必ずUターンするではありませんか。子どもたちはその不思議の「発見」に顔を見合わせました。そして、その原因・しくみを調査することにしました。

ここで子どもたちは、カワトンボの「不思議」(なぜ?)を発見した「驚き」や「喜び」をもちました。それは、子どもらが科学的な不思議発見のおもしろさである「サイエンス・オブ・ワンダー」の入り口に立ち、自然(トンボの目)の美や音(イナゴやセミの声)を感じながら自然を楽しむ「センス・オブ・ワンダー」の世界にいることを表しています。

これまで、環境教育界では「センス オブ ワンダー」の重要性が指摘されてきましが、田んぼでの活動のように、「サイエンス・オブ・ワンダー」も重要で、人の中では両者同時に発動されているのです。

科学と感性の関係

関係1:やまびこのような関係

子どもたちと調査するとカワトンボは、小川の底質が砂泥から礫に変わる所でUターンしていました。それは、本種のヤゴは、渓流性で礫質に生息し、カワトンボにとって礫質のエリアが重要な生息地であり、底が砂泥の小川エリアや田んぼのような所は関係がないからです。トンボは人とは関係のない、独立して動く客観的存在ですが、この科学的事実(知見)を発見した子どもらは、驚きと喜びを心(感性)に響かせました。科学的に知れば知るほど、喜びと驚き(感性)は大きくなるのです。その喜びや感動が次のサイエンス研究ステップへの動機付けとなります。一方、研究者は科学(研究・調査)をおもしろいと思うからからするのです。「センス・オブ・ワンダー」の著者であるレイチェル・カーソンはウッズホール研究所の科学者で、この本でも彼女はトウヒとモミを分類し、ノドジロムシクイ、ヨタカ、ウタスズメなどの声を聞き分けることができる、優秀なナチュラリストであることが証左されています。また、科学的知見が高まるほど、感性豊かなインタープリテーションができることを示しています。科学と感性は、響きあう「やまびこ」のような関係なのです。

関係2:両輪の関係

科学と感性は、やまびこ関係なので、環境教育の指導者は互いに刺激し合いながら、それらを両輪にし、インタプリテーションを前進させると、さらに馬力が増します。それにはリーダーの活動するフィールド(ローカル)での地道な科学的知見蓄積が基盤となります。同時に、グローバルな同行と、科学的な知識は不可欠です。

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環境教育における科学の役割

2003年の清里ミーティングから6回にわたり私たち(小河原孝生・河原塚達樹・北野日出男・戸田耿介・南正人 等)は、科学と環境教育をテーマにワークショップを展開しました。その中で科学の要素を3つ挙げました。1つは客観性です。2つめは具体性です。具体的観察や実験抜きには、環境対象を正確に理解できないからです。3つめは法則性です。科学は多くの観察や実験から法則を探り出していきます。それは高度な科学領域と同時に田んぼのような身近な環境でも見つけることができます。

このような科学の環境教育における役割は、客観的な環境認識と視点・考え方を人々に育むことにあります。その環境対象は、宇宙と地球の歴史、大陸移動、地球温暖化、生物多様性、進化・系統、生物の生きる仕組み・自然史、環境破壊など、ローカルからグローバルで時間と空間を越えたものになります。

科学を環境教育に活かす方法

方法1:五感を使う=環境認識と感性を同時に育てる

視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感は、外界の環境と人とを結ぶパイプです。ススキの葉を触ると、手が切れてススキの葉の鋭さを知るように、五感体験は環境認識を育てます。また、レイチェルも感受性に磨きをかけるには、目、耳、鼻、指先の使い方をもう一度学び直すことと述べているように、五感体験は感性を育てる働きがあります。

ただ、これには適正な指導が必要です。五感は意識しないと動きが鈍いからです。ですから、指導者は、「音いくつ?」のような五感スイッチを入れさせたりすることが必要となります。さらに、感性と科学的視点は、耕して育つ性質もあるので、継続的で地道な、心を耕すような指導が必要となります。

方法2:体験の加工化

体験活動は、大きな教育力を有していますが、体験だけで終わると大切な「感性」・「科学的力」のような教育要素がザルの隙間からこぼれ出るように失ってしまいます。体験をより効果的とするには体験後の「体験の加工化」が重要なのです。これは、2つの活動から構成され、1つ目の活動は、体験を科学的・知的に整理することです。体験したり調べたことを、定性的データーや定量的データーとして、活動の結果を整理し、考察し、まとめる活動です。

2つ目の活動は、情意を深めることです。体験したことを俳句・短歌・絵・音楽とすることを通して、情意を深めることができます。

感性はハートの働きなので、人の内部の心の動き・感動・想いを外へ表現させることが、感性を刺激し、情意を深める方法となります。さらに、科学と感性はやまびこ関係なので、片方が大きく鳴ると、別の片方も快ちよく響きます。ですから双方をより響かせるプログラムマネージメントの工夫が不可欠となります。

 

今後は、さらに環境教育においてローカルからグローバルに観て体験させる科学カリキュラムや、発達段階に応じた科学プログラムが必要となってきます。そして、サイエンス・オブ・ワンダーとセンス・オブ・ワンダーが、やまびこのように響きあう、独創的で具体的なプログラムが多発する日本各地となれば幸いです。

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湊 秋作(みなと しゅうさく)

キープ協会やまねミュージアム館長・関西学院大学教育学部教授。理学博士(京都大学)。「ヤマネの総合的研究」・「環境教育」と「田んぼの保全・環境教育」を進める。幼児から企業人までの環境教育を展開し、大学では環境教育・理科教育を指導する。

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