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道草さんぽ(2)― 冬の楽しみ ロゼット探し 2024.01.15

寒々しい都会の大通り。でも、植え込みの間や舗道のすきまをよく見ると、ほら、ここにも、そこにも、地面に大小のロゼットが。

地面から放射状に葉を広げた形をロゼットといいます。ロゼはフランス語でバラ。花の形に見立ててこう呼ばれるようになりました。タンポポやオオバコのように一生を通じてロゼットとして生きる草に加え、冬はナズナやハルジオン、オオアレチノギクなど多くの雑草がロゼット仲間に加わります。

ほんの100mほどの間に、発見、ロゼット15種!

街のロゼット

ロゼットの戦略とは

ロゼットは、道端や空き地といった開けた環境に有利な形です。茎という設備投資を節約して光合成の工場である葉を広げるのですから経済的です。ただし、背の高いライバルがいると競争に負けてしまいます。都会の道端はライバル不在の理想的な環境というわけです。

ロゼットは寒さをしのぐのにも有利です。太陽の直射を受けた地表面は、冬でも案外ぬくもります。この限られた二次元空間にロゼットは葉を平たく広げます。地表面に近づけば風の力も減衰します。

一方で、夜は放射冷却で地温は一気に低下します。このときロゼットは葉内の水分を減らして糖濃度を高めることによって凍結を回避します。自動車の不凍液と同じ原理です。葉の表面が霜で白く覆われても、水分がさらに外に吸い出されて葉の糖度が高まるので、よけい凍りにくくなるのです。これが、霜にあたるとホウレンソウが甘くなる理由です。ホウレンソウもロゼットの一員なのです。

冬は紫外線も大敵です。ひなたのロゼットはしばしば赤や紫を帯びますが、これは紫外線を吸収する色素のアントシアニンが合成されてくるから。紫外線防止のサングラスというわけです。

こうしてロゼットは、冬の太陽を浴びて成長します。気温が低ければ呼吸消費も少なく済み、その分のエネルギーを成長に回せることもあって、案外、成長は早いのです。

里山のロゼット

春、ロゼットは待っていたとばかりに、あるものは花を咲かせ、あるものはライバルと競っては茎を伸ばします。冬の間により大きく葉を広げたものほど、多くの花を咲かせ、よりたくさんの種子をつくれます。

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都心の日比谷交差点では、実験植物として有名なシロイヌナズナのロゼットも見つけました。わくわく発見、ロゼット探し、あなたもトライしませんか。

 

多田 多恵子(ただ たえこ)

NHK ラジオ『子ども科学電話相談』、E テレ『趣味どきっ!道草さんぽ』などでおなじみの植物学者。東京大学卒、理学博士。植物の生き残り戦略をワクワク調べている。2021年「松下正治記念賞」、2022年「日本植物学会特別賞」受賞。著書に『美しき小さな雑草の花図鑑』(山と溪谷社)、『したたかな植物たち(春夏編・秋冬編)』(ちくま文庫)、『身近な草木の実とタネハンドブック』(文一総合出版)など多数。

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