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道草さんぽ(1)― 晩秋の野原のタネ探し 2023.11.15

野原は一面、枯れ葉色。春から秋までいろんな花が咲いていたのに、今は茶色く枯れた草ばかり。まるで命が消えてしまったかのようです。

直立する枯れ茎の先の方に、おや、茶色く乾いた実のさやが並んでいます。さやの先端は上向きに裂開し、口があいています。茎を揺すると小さな粒がこぼれました。タネが入っていたのです。

風が音を立てて吹きわたると、茎はしなるように揺れてタネをこぼします。そうか、上向きに開いているから、強い風が吹いた時にだけタネがこぼれて遠くまで飛ばされるわけですね。

よく見ると、こっちにもあっちにも、実をつけている草がありました。種類が違えば実も違って、形や大きさが違います。手のひらにこぼしてみると、タネの色や形もさまざまです。

旅支度もさまざまです。白いわたげをつけているのは、風にふわふわ飛んで旅をするタネたち。とがった針をイガグリ状に集めたような形をしているのは、いわゆるひっつきむしたちですね。

いろんな実やタネを集めたら、空き箱に並べてみましょう。一歩下がって眺めると、わぁ!すてきな標本箱ができました! 図鑑をめくって植物の名前も調べてみましょう。

さびしく見えた晩秋の野原ですが、じつは、わいわいがやがや、実やタネたちの大合唱なのでした。

こちらは飛ぶタネの標本箱。何のタネだか分かるかな?

植物のタネは足元の地面にも眠っています。

風や動物を利用して旅をしたタネは、暗い場所に落ちてしまうと芽を出さずに眠ります。地面が明るくなる偶然を待って、何年も何十年も眠るのです。そしてついに大きな変化が起こって空き地ができると、タネは光や温度変化を感知して、ここぞと芽を出すのです。

よく建造物が取り壊されたあとにいっせいに草や木の芽が伸びてくるのは、無数の小さな眠り姫たちが目を覚ましたから。目には見えないけれど、枯れ草だらけの地面の下に無数のタネたちがいたのです。

メマツヨイグサの実とタネ。円内は花。 タネは地面の下で80年も眠ってチャンスを待つ。

私たちを取り巻く自然の中には、見えていないもの、気づいていないことがたくさんあります。それでも、ちょっと視点を変え、意識を変えてみると、見えてくるものもあるのです。

晩秋の枯れ野原にもたくさんの命がタネという形で息づいています。茎の上で旅立ちを待っているものも、地面でじっと待っているものも。こんなにたくさんの存在を思えば、もうさびしくはないでしょう?

気がつけば、ズボンにごっそり、ひっつきむし。
「わーい、やったぁ、くっついたぁ!」「すてきなところに連れてってねー。」
どこからか声が聞こえたような・・・?

コセンダングサのタネの集合と逆さとげの拡大。 服にくっつくひっつきむしの代表格。スマホにはさんでつけるマクロレンズは、細部の観察にとても便利。コセンダングサのタネには鋭い逆さとげがあり、服に刺さると抜けずにくっつく。

多田 多恵子(ただ たえこ)

NHK ラジオ『子ども科学電話相談』、E テレ『趣味どきっ!道草さんぽ』などでおなじみの植物学者。東京大学卒、理学博士。植物の生き残り戦略をワクワク調べている。2021年「松下正治記念賞」、2022年「日本植物学会特別賞」受賞。著書に『美しき小さな雑草の花図鑑』(山と溪谷社)、『したたかな植物たち(春夏編・秋冬編)』(ちくま文庫)、『身近な草木の実とタネハンドブック』(文一総合出版)など多数。

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