寒い時期は、寒い国の絵本を、あたたかい部屋と声で。
こんにちは。ちえの木の実です。
12月に入ると、厚手のコートの出番が一気に増え、「いよいよ、マロースじいさんがやってきた」とロシア民話を片手に心をあたためています。サンタクロースよりも先にふと頭に浮かぶマロースとは「冬将軍・寒波」のことなのです。ロシアに古くから伝わるお話の中に出てくる、実はあたたかいおじいさん。サンタクロースやトナカイのいる、遠く寒い国のお話を、あたたかいお部屋で、子どもたちにたくさん聞かせてあげたくなりますね。寒い日は、おはなしや声により一層ぬくもりが感じられるのではないでしょうか。
12月の本棚は･･･
天井にてっぺんの星がついてしまうほどの、大きなクリスマスツリーを、お店の真ん中に飾っています。そして、入り口も、本棚も、ウィンドウも、クリスマス一色。クリスマスプレゼントを選ぶ時間って、なんて心躍る時間なのでしょう。誰かの喜ぶ顔を思い浮かべながら絵本を選ぶように、今年１年を振り返って「がんばったね」と自分の頭をなでながら、自分に絵本を贈るのもよいかもしれません。今月は、誰かに、自分に、贈りたくなるような絵本をご紹介します。
サメ好きなあの子に、ストレートにサメの絵本を贈る。
『サメってさいこう！』（偕成社）
恐竜が生まれる2億年前には地球上に生息していた、といわれるサメ。絶滅の危機を何度も乗り越え、地球上のあらゆる海にいるサメには「ロマン」という言葉がよく似合います。サメのシャツを着た小さな男の子から、そのお父さん、おじいちゃん世代まで、サメの話に目を輝かせる方々のなんと多いこと！ 見た目のカッコよさだけではない、ハンターとして装備しているもの（超能力や金属探知機）にも、おもわず唸ってしまいます。なにより、この絵本のタイトルが、サメ好きさんたちの声を代弁しているようで「さいこう！」なのです。
料理と外国が好きなあの子に、世界の食べものの絵本を贈る。
『ライラックどおりのおひるごはん みんなでたべたいせかいのレシピ』（BL出版）
ライラックどおり10ばんちの、とある建物から今日もいいにおいがただよってきます。あるお部屋では、スペインのサルモレホ（トマトの冷製スープ）、上の階では、南インドのココナッツ・ダール（赤レンズ豆のカレー）、日本人のおうちでは親子どんぶり。そう、それぞれのお部屋の、さまざまな国の住人が、「いつもの」家庭料理を作っているにおいなのです。スパイスの香りも、食材や調味料の懐かしいにおいも、食後のデザートのあまいにおいも……。この絵本を開くだけで五感が刺激され、むくむくと力が湧いてきます。最後は作った料理を持ち寄って、ガーデンパーティ。おいしい手料理を囲む場所には、国境などはなく、そこは平和な笑い声に包まれているはずです。
1年間がんばった自分に、美しい絵本を贈る。
『ほしがねむるところ』（ワンストローク）
夜空に瞬く、幾千もの星。目を凝らせば凝らすほど、目が闇の色に慣れてくるからか、その輝きがクッキリと見えるのに、なぜか「今、光が届いている星はもう存在しないのかもしれない」という寂しさが同時に押し寄せてくることがあります。この絵本の中では、遠くの山に、春の野原に、あちらこちらでキラキラと輝く星の姿が、美しく重なり合う紙に描かれています。「あさひを はんしゃする かわもに ほしが まいおりる」そこで静かに星は眠りにつくのですね。そしてまた、新しい星が生まれる。この絵本を開いている間は、ゆったりとした静謐（せいひつ）な時間が流れているから、自分をやさしく労わりたくなるかもしれません。
今年1年、たくさんのニュースが世界を轟かせ、そのたびに心がざわざわしましたね。刺激的な情報の多い現代、子どもたちの目や耳を塞ぐことはできません。ならせめて、やさしいおはなしを届けてあげたい、と祈りつつお店作りをしています。子どもたちが安心して、好奇心いっぱいに自分の見たいもの、聞きたいことを選択できるよう、絵本でお手伝いができたらと思っています。
武本 佳奈絵（たけもと かなえ）
ちえの木の実スタッフ。アメリカの大学にてカウンセリング心理学専攻。都内児童書専門店、出版社などにて勤務後、2020年2月にちえの木の実に入社。絵本・児童書の翻訳なども手がける。2児（高校生、中学生）の母。
ちえの木の実ホームページ ▶https://www.chienokinomi-books.jp/
