自然と共にある暮らし
ブータンの自然といえば、生物多様性に富む山々と、清らかな水が流れている川と肥沃な田園を擁する渓谷をさします。ブータンの人々は、ヒマラヤ山脈の高い山々の中で、何世紀にもわたり、コミュニティを形成し、自給自足の農業と牧畜を営みながら、調和ある生活を送ってきました。多くのコミュニティは森林に隣接しており、そこから木材や非木材林産物、水、家畜の飼料、狩猟によるタンパク質などの生態系からの恵みを得て生きてきました。
ブータンにおける仏教の価値観が、人と自然が共存に関係しています。例えば、ブータン人は資源を管理するためにコミュニティが「管理システム」を導入してきました。同様に、自然や文化の保護に貢献するような考え方・思想もありました。「ソクダム」、「リダム」、「ツァダム」と呼ばれる環境を守るため制限を設ける信仰もあります。ソクダムは1年のうち吉兆な月に生き物を殺さないようにすること、リダムは神が宿る自然の場所に近づかないようにすること、ツァダムは1年のうち春から秋にかけての一定期間に放牧地に近づかないようにすることです。ブータンでは、神々を鎮めることで洪水や雹などの自然災害を回避し、農作物の豊穣を確保するといった信仰があり、先述した自然への介入を制限する制度により、生物多様性の再生と保全が推進されてきました。
しかし、時代や人々の近代開発に対する考え方の変化に伴い、こうした伝統的な信仰や慣習の多くが変化してきています。経済発展を望む声が多いのです。世界中で起こった出来事からわかるように、コミュニティとその生活の選択は、天然資源の保全と管理が両立できるのか、あるいは破壊してしまうのかといった重要な影響があります。そのため、環境保全機関では、人々の生活ニーズ、保全の計画とその実践に注意を払い、環境保全の社会的側面を研究してきました。
自然林の管理と維持は、生物多様性と生態系サービスの維持に不可欠です。ブータン王国政府は、昔ながらの伝統的な資源管理の実践に近いコミュニティ林業システムを開始しました。森林資源や林産物の管理に関する権利をコミュニティに与える「コミュニティ林業制度」の登場は、コミュニティの森林資源管理への参加と関心を高めることになりました。コミュニティの取り組みは経済的合理性によって推し進められています。
文責:チェリン・チョキ 翻訳:山口泰昌(海外事業グループ)