季節の移りかわりは絵本と共に…
こんにちは。ちえの木の実です。
「1年のうちで、いちばん好きな季節は?」という質問に、私はきまって「夏の終わり」と答えます。『ナツヤスミ語辞典』というお芝居に、「季節は2つしかない。夏と夏を待つ間」という忘れられないセリフがありますが、私はいつも「秋と秋を待つ間」と言いたくなります。まもなく秋になる直前の、ひと夏を乗り越えたあたりの、なんとも曖昧な時期がわけもなく好きなのです。なかなかバシッとバトンを渡してくれない今年の夏も、10月に入ってようやくその気になったようです。ひとことでは言い表せないくらい、色とりどりの日本の夏。激しい寒さと共に、スタートを切りましたね。
10月の本棚は・・・
「〇〇の秋」というテーマで棚をつくると、お店が一気に秋の暖色に染まります。紅葉に、ハロウィン(実りの秋)のオレンジ、サツマイモ(食欲の秋)の紫。芸術の秋に、スポーツの秋、読書の秋…。秋と聞いただけで、真っ先に色が思い浮かぶのは、すてきなことですね。
今回は、幅広い秋セレクションから、秋の入り口にふさわしい絵本をご紹介したいと思います。
絵本の中で見つける、ちいさい秋。
『ぞうきばやしのすもうたいかい』(福音館書店)
雑木林のすもう大会は、とある切り株が土俵です。力士は、カナブンとタマムシ。ダンゴムシとカマキリ。オサムシとカメムシ。それぞれの虫が、それぞれの特長を生かした戦い方で挑みます。この絵本の読者は、土俵際で大声援をおくっている観客になった気分に。虫同士がぶつかり合う音、サッと身をひるがえす羽の音、そして独特なにおいすら伝わってくるようです。
ところで「雑木林」とは、どんなところでしょう。さまざまな生き物でにぎわう雑木林の春夏秋冬を描いた『里山の自然 雑木林の20年』(偕成社)もごいっしょに。夏から秋への移り変わりのページが、いちばんの盛り上がりではないでしょうか?
『ぞろりぞろりとやさいがね』(偕成社)
冷蔵庫の中で、忘れ去られてしまった野菜たち。しゃきっとしていたはずの長ねぎ、しなびてしまったトマト、芽がたくさん飛び出たじゃがいもたち…。元はみずみずしかったはずの、古びた野菜たちは、ある集会に出かけるところなのです。悲しくて、悔しくて、人間を恨みたくなる気持ちを静めたのは、みみず和尚のひとことでした。「みなで、つちに かえるのじゃ。」からだはくさってしまっても、心がくさっていなければ大丈夫。そんな野菜たちの前向きな歌声に、人間の方が元気づけられてしまう1冊です。
『りんごだんだん』(あすなろ書房)
実りの秋、収穫の秋、といえばりんご!表紙にある、真っ赤なりんごを定点観測した、写真絵本がこちらです。だいたいは、実がつやつやのうちに食したり、少し時間がたってからお菓子にしたり、と、ここまで変貌をとげるりんごの姿を想像したことすらないかもしれません。なんと、最後のページで見られるのは、346日後のりんごの姿なのです。ちょっと怖いような、でも気になるような…時間の経過と共に変わりゆくりんごの姿を、勇気を出して見てみてください。
季節の変わり目も、今過ごしている季節も、そして次の季節を待つ間も、絵本がそばにあるって幸せですね。大人の目線では見失いがちな大切ななにかが、絵本の中に隠れていることもしばしばあります。絵本の中の「秋探し」、そして一歩フィールドに出てからの「秋探し」、たっぷりお楽しみくださいね。