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第6回 SDGsが私たちに問うていること(最終回) 2022.09.15

2015年に国連で採択され、現在、世界の190カ国以上が取り組んでいる「SDGs」。始まった当初はほとんど認知されていなかったのに、ここ数年はどの企業も学校も「SDGs、SDGs」の連呼です。今回は、SDGsについて私が思うことをお伝えいたします。

夏は、環境省と一緒にオオハンゴンソウの駆除活動を行っています。

先日、公立小学校の特別支援学級の自然体験プログラムを担当しました。私の班にいたK君は、「卵の腐った匂いがする(那須は活火山があるので敏感な人には微妙な火山性ガスの匂いが分かります)」と言って外に出るのをぐずります。
先生に伺うと、K君は、コロナ禍の社会に反応して、自身の過敏症がさらにパワーアップして何に対しても「ばい菌がある」と言って触ること、汚れることを極端に拒否する毎日をすごしているとのこと。だとしたら、彼にとって自然体験は苦痛以外の何ものでもないのでしょう。初めて会う私とて恐怖のはず。
私は他の児童の心理に配慮しつつ、彼がどの程度ならプログラムに参加してくれるのか様子を見つつ進行し、K君は頑張り、プログラムは無事に終了しました。K君が満足できる時間や生活とはどんな世界なのだろう? 私は、これからも遭遇するであろうK君の不自由さだらけの現実について思います。

そして私たちが取り組んでいるSDGs。もはや2030年までに「誰一人をも取り残されない」世界の達成など、誰も信じてはいないでしょう。
しかもウクライナでは戦争が続き、今年の日本の猛暑は異常気象だと記録されました。3年目になる新型ウイルスによる感染は終息が見えません。東日本大震災から11年がたっても被災地に住む人々の困難はまだまだ続いています。福島については、原発という経済価値の破壊によって地域世界が壊され振り回された11年であり、帰還できてもとうてい昔の暮らしには戻れないという現実を突きつけられています。そして福島以外の人はそのことに関心を寄せてはいないだろうことも。

「イモムシを探そう」プログラム。調査後、子供たちは見つけたイモムシを丁寧に観察しスケッチします。虫好きキッズが増えますように。

加えて、最近、環境に関する賞を授与された団体が新聞の紙面に載っていたのですが、私は、その団体の男性職員が常々女性職員に対してひどいセクハラをしていることを知っています。私はこの紙面を見たときに、強い違和感を抱きました。こんな団体が褒章を受けていいのか?。本質は腐っていても表面上それが見えなければいいのか、と。
「本音と建て前」の使い分けが上手な日本人と昔から言われていますが、そろそろ「言行一致」になるよう努力しませんか?雑駁ですが、「SDGs」的視点で「今」を概観した私の意見です。

成果と言えば、「5.ジェンダー平等を実現しよう」項目において、日本が世界から見ていかに後進国であるかが明らかになったこと、でしょうか。私はこの項目の達成は想像もできません。
「夫婦が別姓であると家族が一体とならない」という理由によって夫婦別姓でさえ承認されない日本。相変わらずLGBTQに対して差別的な発言をする政治家たち。そして性犯罪の多さ。暗澹たる思いです。

K君がそう言葉にするかは別にして、日本という国が現状の「一人一人が大切にされていない国」から、「一人一人が大切にされる国」に変わっていくのはいつなのでしょう。その実現こそがSDGsの達成と言えるのではないかと、私は思います。
それほどまでに困難な課題なのだということを、強く認識すること。私たちひとりひとりの周りにある課題から逃げないこと。東日本大震災を始めたとした災害の実情を忘れないこと。劣化した政治や経済に期待はできないけれど、諦めないこと。
私がこれまでお伝えしてきた5回のコラムのすべてがSDGsのテーマに含まれていることです。未来に生きる人々は、SDGsに取り組んでいた年代を振り返ったとき、どのような評価をするのでしょうか。

6回に渡り連載しました私のコラムは今回で終了いたします。ありがとうございました。

若林 千賀子(わかばやし ちがこ)

若林環境教育事務所代表、栃木県にある「日光国立公園那須平成の森」でインタープリターをしています。そのほかNPO法人自然体験活動推進協議会理事、(一社)アニマルパスウェイと野生生物の会会員、JEEF元理事。関心領域は、自然全般、人権に関する事柄。家族は二人と老猫一匹。これまで飼ってきた動物は、犬、猫、文鳥、コザクラインコ。動物はすべて好きです。

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