会員ページ Member Only

風車の国のミュージアムめぐり(5)水害の歴史に向き合う、海の恵み豊かな島 2022.08.15

オランダは海抜が低いうえ北海の嵐も多く、昔から非常に水害の多い国でした。特に1953年の北海大洪水は、南部のゼーランド州を中心に1836人もの被害者が出た大災害。この時に島が丸ごと冠水した場所にあるWatersnoodmuseum(洪水博物館)は、災害を伝え、近年世界中で増えている水害についても警鐘を鳴らすミュージアムです。

巨大なコンテナが並んだような独特な外観。洪水の後、川を塞ぐために使用されたものと同じコンクリート構造物、「ケーソン」で造られています。4つのケーソンは「災害の夜」「絶望と決断」「復興と堤防補強」「水との戦い」をテーマにしていて、災害の状況、人々がどのように行動し復興していったか、そしてこれからのオランダや世界の水害との関係を考えるストーリーになっています。

  

大きな嵐をもたらした波や風の様子(左)と、洪水で流された当時の生活用品や思い出の品など(右)

北海大洪水については、発災時の様子、被害が大きくなった要因、復興工事など、膨大なデータと資料による事実と検証を積み重ねて、丁寧に説明されていました。そして最後はオランダの治水事業、気候変動による異常気象がもたらす世界各地の水害について取り上げられています。

出口には世界中のツイッター投稿から収集された水害の書き込みが映し出され、水害は過去のものではなく、現在そして未来も続いていくものだと思わされました。

  

洪水が起きた時にどうしたらよいかを伝え、考える展示(左)と、世界各地の水害を伝える映像(右)

ケーソンを出るとそこは小高い丘で、それこそが島を守っている大きな堤防。眼下には海があります。実はゼーランド州は牡蠣やムール貝の養殖が盛んで、日本人にも人気の牡蠣レストランが並ぶ街があるほか、沿岸に自生している牡蠣も決められたルール内で自由に採集して持ち帰ることができます。

そのような豊かな海の恵みと水害の危険の狭間で人々が生きていくために、ここでは堤防や防潮堤を作るなど大きな工事を重ねてきました。壊滅状態になった後も、自然と向き合いながら生活を営んでいること、そして島を作り変えてもここに住み続けたかったこと。その両方に思いを巡らせながら、海の幸をいただくゼーランドの夜でした。

ミュージアムの裏手も採集可能な海岸で。牡蠣の他にも様々な貝や海藻がありました。

福成 海央(ふくなり みお)

科学コミュニケーター。環境教育と科学技術、2つのミュージアム勤務を経て2016年よりオランダ在住。日本語でのサイエンスワークショップ開催や、オランダに関する情報発信、執筆等を行っている。小6、小3、小1の3児の母。

SciNethホームページ ▶https://www.scineth.com/

JEEFメールマガジン「身近メール」

JEEFに関するお知らせやイベント情報、
JEEF会員などからの環境教育に関する情報を
お届けします。

オフィシャルSNSアカウント

JEEFではFacebook、Twitterでも
情報発信を行っています。
ぜひフォローをお願い致します!