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小笠原の不思議(2)~感性を育む~ 2022.05.16

村の中心から一番遠い場所へ行こう!とバスに乗ると終点の小港海岸に到着します。海岸へ向かって道を進む時、目をつぶってゆっくりと歩いてみると、ハスノハギリの木々を通り抜けるそよ風や、ひんやりした日陰、ぬれた土の匂い、クロツグの花の香り、モモタマナの落ち葉を踏む音、オガサワラハシナガウグイスの鳴き声など、深い海岸林を体全体で感じます。

細い道の方向を確かめ、また目を閉じて数十歩歩くと突然強い光を感じます。そっと目を開くと、広い砂浜が目に飛び込んできます。そのまま海に向かって歩いていくと、高木から低木、イネ科植物、海浜植物のハマゴウと、海岸にむかって植物の種類が変わっていくのがきれいに見えます。

 

波打ち際まで歩くと、小さく丸いものが打ち上がっています。大型有孔虫のゼニイシです。貝や欠片とともにちりばめられています。

 

波打ち際のそれをたどっていくと、今度は岩肌に大きな模様が見えてきます。枕状溶岩です。

 

模様を見ながら目線を波打ち際にもっていくと、そこにはオハグロガキだけがびっしりついていて、ピンク色の線のようです。

海の匂いがしないことに何か物足りなさを感じながら、木陰に着きました。綿の大きな布を広げ、その上に寝転ぶと、砂の形状に布が合っていくので、肌触りが良く、心地良い。寝てしまいそうです。ゆっくりしていても、虫の気配を感じません。何もいないのかなと思っていると、ぷーんっと米粒より小さく黒いものが飛んできて、ポトッと落ちるかのように着地します。観察ケースを取り出してルーペで見てみると、オガサワラハマベエンマムシです。その日は、この虫しか出会わなかった、なんとも不思議な海岸です。

 

何かが足りなくて、何かがある不思議な場所。「この場所で、地域の子どもたちと調べる会をひらこう!」と思いつきました。

 

ありのままの自然を、

自分が感じた気づきから始まる、

正解のない世界を大切に、

見る人の発見に言葉をそえる、

そんな会になったらいいな。

 

と思いました。その後20年間、小港海岸だけを舞台に、そこの自然全体が子ども用の研究室にしようと「Kid’s Lab.小笠原」と名付けて会を開きました。海岸にある休憩所がその日かぎりの研究室になりました。

手塚幸恵(てづかさちえ)

企業勤務後、国内外のスクーバダイビングの講習やツアーを担当。小笠原ビジターセンターで働いたことがきっかけで、国内外で施設展示や解説方法を学び、生物園やビジターセンター、世界遺産センターで飼育や解説に携わる。仕事の傍ら、子どもを対象に自然観察会や実験教室、星空教室を運営。現在会社役員。小笠原に在住22年目。

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