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尾瀬の自然便り(最終回)尾瀬の春告草(はるつげぐさ) 2022.03.15

一般的に、春告草といえば、梅のことをいいます。
早咲きのものは立春頃に咲きはじめ、春の訪れを告げる代表的な花です。
一方で、尾瀬の春告草というと、水芭蕉で良いかと思います。

水芭蕉は雪解け直後に花を咲かせるため、雪解け時期によって各地で開花にずれがあります。
尾瀬は高山で、また豪雪地帯のため、ゴールデンウィークを迎えてもまだ雪景色。静かだった森に、雪解けの沢音が聴こえるようになると、そこに水芭蕉が顔を出します。
時期は5月中旬から6月上旬。その頃、下界はすでに初夏、そんな季節です。
(「夏の思い出」の歌もあり、夏の花と思われがちですが、これは歳時記の影響があるといわれています。ちなみに水芭蕉は夏の季語です)

枯れ草色の湿原に真っ白な水芭蕉

冬の終わりには、真っ白だった林床に黒い水玉模様が出現します。

この模様は、木の根元の雪が丸く解けて、土が見えたものです。雪解けは木の根元からはじまり、これを「根開(ねあ)け」や「根開(ねびら)き」と呼びます。

ブナの根開け(5月上旬から中旬)

木の幹が、春の日差しや周囲の雪に反射された光を受けて暖まるためとか、風が根元を巻くように吹き抜けたり、雨が枝を伝い幹に集められて、根元の雪を解かしてできるなどと考えられます。

生き物たちの気配も感じるようになります。

木道下に水芭蕉とツキノワグマのうんち

残雪の林内で見つけたニホンヤマネ

尾瀬の四季は冬が半年、残る半年の中で、春夏秋が過ぎていきます。秋は山の上から麓へと駆け下っていきますが、春は逆です。
下界で春を過ごしても、列島を北上したり、高山に登れば再度春を味わうことができます。

私は桜を4月に前橋市で、5月に片品村(尾瀬の群馬県側)で、6月に尾瀬で愛でています。
まだ冬景色の片品村から前橋方面に出かけると、道中でコブシが咲き、ヤナギが芽吹き、新緑の山の斜面に山桜を眺め、春と共に移動をしている気持ちになります。
その都度、大好きな季節を感じることができて何度も嬉しくなります。

ふと、私の楽しみは2種類あることに気がつきました。
「その季節が来て感じる楽しみ」と「次の季節を待つ楽しみ」

今年はどんな春夏秋冬を尾瀬で過ごすことができるのかなぁ。
そんなことを考えながら、まだ少し―――待つ楽しみを味わいたいと思います。

オオカメノキの冬芽

拙い文章と内容で恐縮でしたが、今まで読んで頂いたみなさま、ありがとうございました!

伊澤 菜美子(いざわ なみこ)

尾瀬自然ガイド。神保町で紙の卸売会社に勤めながら、休日は森に通う社会人生活をしばらく過ごす。その後、山梨の自然学校で環境教育を学び、ガイド、ビジターセンター運営の経験を経て、群馬県北部に移住。現在は尾瀬国立公園で自然や関わる人々の魅力、環境保全の取組みなどを伝える仕事に携わる。

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