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大地、海、空、人々の想いを、おいしく料理して、ひとつのおさらに。(4)働き方 2022.01.17

ひとつのおさらは、多くのスタッフと共に運営しています。シェフが一人だと、必ず定休日を設けないといけないところですが、数人のキッチンスタッフが日替わりでお料理を担当していますので、定休日を設定せず、ほぼ毎日営業しています。働き手は90%が女性で、既婚者が多いのですが、未婚者もいるし、学生もいます。

既婚者は、いわゆる「主婦」と呼ばれる立場の方で、子どものいる主婦、子どものいない主婦、子どもを育てあげた主婦、シングルで子育てしている主婦、介護している主婦と多様です。私は自分自身が主婦なので、周りにも主婦の友人が多かったし、主婦の能力の高さを知っていました。マルチで知恵のある方が多い!お店では家庭料理を出したいと思っていたので、もちろん、主婦の方に働いてもらおうと考えました。一方で、主婦の働き方は、①長時間は難しい②毎日は厳しい③お迎えの時間がある④子どもの学校行事や病気の時は休みたい⑤週末や学休期間は仕事できないなど制約も多くありました。

 

1993年に夫が環境教育の個人事務所として環境共育事務所カラーズを立ち上げた時、「雇わない、雇われない」と決めました。現在、その掟(?)を破って、夫は雇われ、私は雇っています。改めて雇うことの意義を考えてみると、制約のある主婦の働く場を作っていくこと、そして、私の考えている働き方に挑戦してもらうことでした。それは、自分らしく、自分を活かして働くことであり、次のステージに向かうためのステップとして働くことです。 夫が独立したての頃、夫婦二人でやっている時の自由さは、何にも変えがたいものでした。稼ぎが少なくても、自分たち家族が食べていければよかったのです。当時、「仕事」と「しごと」の両方を大切にしていました。

「『仕事』はその対価を得るもので、『しごと』には対価はないが、誰かの役に立つものだ」(西村仁志「役に立たないフリーランスの話」より)と、保育園のお迎えもその道中に子どもとお喋りすることは、父親としての大切な「しごと」だと言っていました。ひとつのおさらのスタッフはみんな、「しごと」を大切にしています。一番の古株スタッフが「忙しいけど、楽しい!」と言ってくれます。ほぼ毎日営業していると書きましたが、それぞれの事情が重なりシフトが組めない日やお盆、年末年始はしっかりお休みしています。スタッフの皆さんが「仕事」で疲弊してしまわないように調整していくのが私の「しごと」でもあります。

誰かを想う気持ち、誰かの役に立つことは幸福感が増します。「仕事」のために働くのではなく、誰かの美味しい!嬉しい!のために心を込めて働いています。

 

ひとつのおさらに決まった店長さんはいません。その日の営業でリーダーとなる人が自然といます。私はお店に出ていない日も多いのですが、みんなで決めて試行錯誤の上でできたシステムがあり、毎日違うスタッフでも営業できるようになっています。

ユニークなのは、日報に書かれる常連さん情報。誰がいつ何を召し上がったかまで書かれています。昨日シフトに入っていなくても、今日連日で来てもらったお礼が伝えられます。「昨日居なかったのに!」とお客様が驚かれることもありますが、昨日と同じお料理を出さないようにしたり、苦手なものを知っておき対応したりすることは、ひとつのおさらでは当たり前のおもてなしなのです。

若いスタッフは、熟練主婦の技を学んでくれています。逆に、年配スタッフは、若い感性での味付けや盛り付けに刺激を受けています。そして、研修の機会を持ち、挑戦を促すなど、それぞれの個性を発揮できるように工夫をしています。次のステージへ進んでいくスタッフは、新しく得た技術や経験を活かしてほしいと願っています。

 

 

家の近いスタッフの子どもがお店に「ただいまー」と学校から帰ってくることもあります。お母さんの働く姿が見えていることは素晴らしい。多様な働き方がある中で、在宅ワークも増えてきていますが、住んでいる地域で働くことは、職住一体ならぬ、職住域一体となり、子どもたちの育ちに良い影響を与えるでしょう。
最後の写真は、アメリカ・カリフォルニア州サンタ・クルーズにあるアイスクリーム屋さんにかかっていたポスターです。2018年秋から1年間住んでいました。(その間、お店はスタッフのみなさんだけで営業が続けられていました!おまけ談)ローカルなフルーツ、乳製品を使って、手作りしているアイスは、毎日でも食べたい美味しさでした。翼の生えたアボカドやバナナたち。良い食べ物が伝播していく、そんな地域の美味しいお店は万国共通で愛されています。

 

西村 和代(にしむら かずよ)

京都生まれの京都育ち。<いのちと食と農>を研究テーマに大学院でソーシャル・イノベーションを学んだことをきっかけに、「おうちごはん」が食べられる食堂を始める。会社経営をする主婦でシェフ、たまに大学講師。女性支援や、子どもたちに学校菜園(エディブル・スクールヤード)を届ける活動も行っている。https://1osara.com

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