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大地、海、空、人々の想いを、おいしく料理して、ひとつのおさらに。(3)生産者 2022.01.14

お店を出した理由の一つに、生産者と消費生活者をつなぎたいという思いがありました。食べ物がどこからきているのか、誰が作っているのか、それがわからないから、大切に扱うことができなかったり、選ぶ基準が「値段」や「かたち」だけになってしまっているのではないでしょうか。それは、食べ物だけに言えることではないと思っています。生産者=つくり手が、私たちの暮らしを支えてくれていることを、頭ではわかっていても、つくり手と出会う機会がないのだとしたら、その機会を作っていこうと考えていました。

ひとつのおさらでお出ししているお米、野菜、お肉、お魚、たまご、調味料などの多くは生産者から直接購入しています。お店をやっていて、仕入れ先がいろいろあることは、とにかく大変です。でも、これを幸せなことだと楽しんでいます。応援したい生産者さんを探したり、紹介してもらったりしながら、仕入れのお話をしていくことも大事なプロセスです。その時も、直接訪ねて行くことができるところには、出向いていきます。

農家、水産業、醤油製造、酢造メーカーなど、顔の見える関係を作っていきました。訪ねることが叶わなかったところでも、電話で話をしたり、メッセージのやり取りなどで感想やお礼を伝えます。総合卸業者さんにお願いすると、その部分がなかなか伝わらないのでもどかしくなります。とはいえ、すべての食材が直接繋がることができないことも多くあります。私は、20代の頃から生活協同組合(生協)の活動をしていたこともあり、生協を通じて生産者とつながる方法を知っていました。お店は、自然派の生協から週に一回の配達を受けることで、どこで作られているのか、生産者は誰なのかを知り、応援することを実現しています。

 

大きな企業からの購入を優先せず、できるだけ直接購入と生協のような支え合いのシステムの中で約束買い(注文しておき、必ず購入すること)をします。誰がどんなふうに育て、誰が運んでくれるのか、そのこともすべてお料理にのせてお届けしたいと思っています。
お店の隣のガレージで、週末開催している「野菜市」も生産者と直接出会い、交流する場となっています。野菜市では、水沢農園さんが直接販売をしてくださっています。「この大きな丸大根はどうやって食べると美味しいの?」「万願寺とうがらしは、いつごろ採れますか?」「この前のトマトは懐かしいトマトの味がしたわ」「次の野菜市はいつ??」など、買い物に立ち寄った方、購入した方々との対話が生まれています。

水沢さんは、「頑張って作った野菜も、誰が食べてくれているのかわからなかった」「美味しかった、スーパーとは違う、野菜市を楽しみにしているのよ、、なんて聞くと、農作業の大変さも乗り越えられる」とおっしゃいます。私たちが感謝と尊敬を持つ必要があるのは、生産者に対してだと強く感じています。

 

一昨年(2020年)、台風一過の夏の日でした。お店まで注文のお野菜を運んでくださった水沢さんが「この台風でハウスのビニールが飛んでしまったんだよね。修理にも費用がかかるよ」とつぶやいておられました。日頃、災害救援などで募金活動をしたり、応援に行ったりしている私は、ハッとしたのです。いつもお世話になっている水沢さんと痛みを分かち合っていきたいと。そこで取り組んだのが、定食1食につき100円募金です。期間を設けて、お客様からは通常の金額をいただき、お店の売り上げから水沢農園ビニールハウス修理代の一部を寄付するという取り組みです。僅かな金額でしたが、喜んでいただき、私たちも日頃の感謝と共に、これからも関係を続けていきたいことを伝える機会となりました。

 

また、生産者は食べ物関係だけではありません。建物も、テーブルも、食器も、置物も、職人の方の思いが詰まっています。ご利用くださるお客様に、訊ねられればいつでもお答えできるように、スタッフみんながその思いを語れるように心がけています。
昨年には、コロナ禍で伝統工芸品が売れず、京都府が用意した職人さんを支える補助金がありました。私たち飲食店でも伝統工芸への支援ができる仕組みとなっていましたので、迷うことなく利用しました。普段ではなかなか高級で手の出ない価格ですが、補助をいただくことで購入することが叶い、お店で活用することができます。京都の伝統工芸品を、実際に手にとってもらい、使ってみて、良さを感じてもらっています。コロナ禍での営業は苦難ではありますが、おいしく、美しく、食を楽しめる空間を作っています。

 

西村 和代(にしむら かずよ)

京都生まれの京都育ち。<いのちと食と農>を研究テーマに大学院でソーシャル・イノベーションを学んだことをきっかけに、「おうちごはん」が食べられる食堂を始める。会社経営をする主婦でシェフ、たまに大学講師。女性支援や、子どもたちに学校菜園(エディブル・スクールヤード)を届ける活動も行っている。https://1osara.com

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