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土から土へ 人から人へ(最終回) 2021.09.15

モノを買うときに何を目安に選びますか。
値段ですか?機能性ですか?それとも何かこだわりがありますか?

私が選ぶときはもちろん値段や機能性も重視しますが、最後どのようなカタチで手放し、そして果てていくのかというところを目安の一つにしています。
モノを所有するということはその先の責任を持つということかと思っています。ゴミ箱に入れたらお終いではなく、その先にも思いを馳せてしまいます。
そうすると自ずと手に取るものは土に還っていくものが多くなっていきました。もちろんこの現代で100%天然素材は難しいので、ガチガチに定義するのではなく、心地よい範囲でゆるやかにモノを楽しく選びつつ、その目安を大切にしています。
もう一つ目安としているのはどこで、どのような人達の手を通して今自分の手の中に届いているのがなるべく見えるかということ。それが見えてくるとモノにも愛着がわいてきて、大切にします。

モノを選ぶ目安だけでなく、自分の手から生み出していくものも同じように大切にしています。自分の手から生み出すものは、土から生まれて最期朽ちて土に還り、人の手から人の手へと有機的なつながりで渡っていくものが心地良いなぁと。

私の生業は麻の繊維から糸を作り、織物をして布にするというものです。その工程の間は化学的なものを一切使いません。その後染色する際も藍と紅花で染め薬品は使っていません。100年ほどもつ布だとされていますが、唯一弱いのは湿気です。その湿気でカビてしまっても土に還ります。もちろん燃やしても土に還る。

ものづくりを始めたときは分業に対して良いイメージが無かったんです。
誰が作ったのかわからない材料で更に自分が手を加え、それがまた知らない人の手に渡りまた加工される…当たり前の流れですが、その大量生産と同じ無機質なつながりの中に自分が組み込まれることに違和感があったのかもしれません。一人で全部最初から最後までできるモノづくりがしたいと無謀なことを思っていました。そしてそれが自分のペースでは持続可能ではないと、打ちひしがれる日が来ました。それからは餅は餅屋ではないですが、有機的なつながりができる職人さんやモノづくりの人を探しました。材料となる麻農家さんの畑に県から許可を得て関わり、作業の中で農家さんの人となりや想いを共有したり、染色をする人もその人の暮らしや想いを知りたいと思って1か月工房で寝泊まりしたこともあります。本当に思うのは自分は人に恵まれているということ。人の手から人の手へと有機的なつながりの中でモノづくりができるということの幸せを感じて日々精進しています。

何に囲まれて暮らしていくのか、そのものがどこから来て、誰の手を経てここにあるのか。
モノを一つとっても様々なストーリーがあって想いを馳せるのも楽しいですね。

岩瀬 希望(いわせ のぞみ)

滋賀県生まれ栃木県在住。 広告制作会社の営業から自然学校職員という過程を経て衣食住の何かの実践者になりたいと、奥会津の村にて伝統工芸の苧麻織の修行へ。現在はitonamiという屋号で栃木にて日本の麻の糸を作りながら、麻農家の手伝いをしたり、無農薬の田んぼ、果樹や畑から恵みをいただいて、里山の地に足をつけた暮らしを目指して奮闘中。

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