春です。絵本と共にあたらしい一歩を。
こんにちは。ちえの木の実です。
春を探しながらいつもの道を歩いていると、ふと、陽ざしや風のあたたかさに立ち止まりたくなったり、ピンク色の花を見つけては笑みがこぼれたり。街じゅうに、春の知らせが隠れているようです。コロナと共に迎え、見送った何回かの春と、今年の春の景色は少し違って見えませんか? マスクを外して見る笑顔からでしょうか。大きすぎた波をようやく乗り越えた(かもしれない)という安堵感からでしょうか。春の色ってこんなにも鮮やかだったのですね。
3月の本棚は・・・
「3・11」を忘れないように、と集めた絵本にはじまり、別れと出会いの季節を彩るような絵本で、お客さまをお迎えしています。卒園・卒業。入園・入学。新しい生活に胸をふくらませながら準備をする子どもたち、大人たち。そんな「はじめのいっぽ」を、絵本という形で応援できたら、と思っています。
また、店内のあちらこちらに、春が咲きほこっています。
サクラ、たんぽぽ、菜の花…ピンクにきいろ、そして葉っぱの若草色。
春にスタートしたこのコラムも、今回で1年の締めくくりとなりました。新しい門出にふさわしい絵本を紹介したいと思います。
『さくら』
丘の上に立つ1本の桜の木。名前はソメイヨシノ。こちらは、ソメイヨシノさんが私たち読者に、桜の木の1年を1人称で語る絵本です。
満開の花には、みつを吸いにくるひよどりさんやすずめさんが。花が散った地面には、花びらの雪。しばらくすると、赤ちゃんの葉っぱが顔をだし、真っ赤なさくらんぼがちらほらと。雨や風、気温の変化に合わせて、自分の姿を、自分の色を変えてゆく桜から、芯のある逞しさが感じられます。この強さこそが、桜を美しく見せているのではないでしょうか。
ソメイヨシノさんの、流れるように美しい日本語のことば。ぜひ声に出して読んでください。
『はじめのいっぽ』
「ちいさなとりが うたっているよ ぼくらにあさが おとずれたよと」
1日のはじまりは、世界中のどこにいても、どんな人や動物にも必ず訪れるもの。「はじめのいっぽ」という歌の歌詞でもあるこの絵本。子どもたちが声を合わせてこの歌を歌うのを聞くと、大人はしっかりしなくては!と奮い立たせられます。せっかくはじまった今日という1日を、大人の手で壊すことがあってはいけない、と目が覚めるのです。
大陸で、大海原で、山で、川で、近所の公園で、それぞれが迎えるそれぞれの朝の清々しさと、未来への一歩を踏み出していこう、という前向きな気持ちが「はじめのいっぽ あしたにいっぽ きょうからなにもかもがあたらしい」に込められています。
『いろってなあに?』
表紙の女の子が握りしめている、色とりどりの風船。あなたはどの色が好きですか?
食べられない、触れられない…でも見ることができる、色。まるで生きているかのように、変化する色の世界が、絵本いっぱいに広がります。今まで「赤ってどんないろ」「黒ってどんないろ」と言葉で説明することができたでしょうか。どんなに言葉を尽くしても語りきれない色の世界。それは、これからの子どもたちが自分の目で見てゆく世界のことなのかもしれません。作者は、最後にこう言います。「いろ。それは、この せかい そのもの」だと。
春の色に、心はふわふわと軽くなります。それが日本の花『さくら』の色であり、『いろってなあに?』から見えてきた「世界の色の1欠片」であり、新しい季節・1年がはじまる『はじめのいっぽ』なのでしょう。私たちの生活のなかに絵本があることで、いつもとは違う景色や色が見えてくるかもしれませんね。これからも絵本と共に、絵本が語りかける言葉と共に、過ごしていかれたらすてきです。