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心の傷を癒すもの~インタープリテーションと共に歩むマインド(3) 2022.06.15

私は、2000年から2010年代にかけて、JEEFの業務でインタープリターのプロ養成講座を担当しているとき、受講生の中に「生きづらさを抱えて生きる」若者がいたことを強く覚えています。
その後も、若い彼らと働くなかで、頻繁に、困難を抱えている若者に出会います。こんなにも多くいるのかと思うほどです。
彼らの「生きづらさ」の原因は何なのか、親密になって個人的な話を交わせるようになると、彼らの心にあるトラウマが少しずつ浮かび上がってきました。それはほとんどが親子や家族関係に起因する「傷」です。

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日本社会では、昔からずっと「家族は最良のものであり、平和で愛情豊かな親の元で子どもが育つことが正しい」と信じられてきました。
しかし、昔から、家庭内暴力(DV)やハラスメントは存在していました。隠すべき事柄として。いま、多くの心理カウンセラー達は、「実は家族とは力の強弱で成り立っており、愛という名前の隠れ蓑で、強者が弱者を支配していることが多い」と発信しています。
しかし、国は「家長を中心とした家族観を壊したくない」ためなのか、その声を肯定的に拾ってはいません。その強者からの支配の被害者が、多くの若者です。
彼らはとても繊細で傷つきやすく、被害者にもかかわらず、自分を責める傾向にあります。
当然、このようなことは他人に知られたくはありません。被虐待を不可視化せねばならないほど、心の「傷」は深いのです。
私にできることと言えば、彼らに「あなたは悪くない!」という言葉をかけることくらいです。
少しでも自分を肯定してほしい。自分がどのような状況に追い込まれているのか、自分自身を客観的に把握できないと、この地獄からの脱出はほぼ不可能だと思うからです。

と同時に、私は、私自身が生きてきた中で、日常で使っているカウンセリングマインドが、この「傷」への治癒効果があるのでは?という希望を抱いています。
傾聴、共感、アサーション(自他を尊重する自己表現)、これらは全て、私たちが自覚的にコミュニケーションに使用しないと身につかないスキルです。体験学習法による内観法もしかり。
じつは私自身、これらのスキルによって、自分自身がエンパワメントされ、怖くて蓋をしていた自分の「傷」に立ち向かうことができた過去があります。
その瞬間は、誰かに水中に押し沈められた顔を自分の力で抗い、初めて息が吸えたようなサバイブ感、「生きていても良かったんだ!」と実感した瞬間でした。その後は、生まれ変わったような気持ちで「生き直し」をしています。

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そしてこれらのカウンセリングマインドは、我々が行なっているインタプリテーションのもっとも基盤にあるべきもので、他者と自分の信頼関係を築ける最初の一歩になることも私は痛切に感じています。
インタープリテーションはテクニックの希求だけではなく、カウンセリングマインドとの両輪があってこそ、相手に届くコミュニケーションになるのだと。

私は、傷ついている人達が、インタープリテーションというコミュニケーションの力を得て、少しでも強くなって自分の人生を生きていってほしいと思っています。
私がこれからも諦めないでチャレンジしていくべき事とは、そこにあるのだと思っています。

若林 千賀子(わかばやし ちがこ)

若林環境教育事務所代表、栃木県にある「日光国立公園那須平成の森」でインタープリターをしています。そのほかNPO法人自然体験活動推進協議会理事、(一社)アニマルパスウェイと野生生物の会会員、JEEF元理事。関心領域は、自然全般、人権に関する事柄。家族は二人と老猫一匹。これまで飼ってきた動物は、犬、猫、文鳥、コザクラインコ。動物はすべて好きです。

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