11月30日(日)、春日山原生林で障がいにかかわらず山にふれる体験ができるプログラムが実施されました。
主催:みんなの春日山ラボ

「春日山原始林」と言われて、どこにある、どんな森かがわかる方はどのくらいいるでしょう。
名前だけ見ると、すごい山奥にある手付かずの森をイメージする方もいるかもしれませんが、実は、「シカと大仏」で有名な奈良公園にあります。
春日山原始林は、1100年以上前の平安時代(841年)に春日大社の神山として勅命により禁伐地となった森林です。明治維新以降は、奈良公園の一部に編入されており、特別天然記念物、世界文化遺産「古都奈良の文化財」にも指定されています。都市部に隣接する形で、1000年以上に渡り維持されてきた照葉樹林は、世界的にみても貴重な場所といえます。
私は、この春日山原始林を次世代へとつないでいくことを目的としている市民団体「春日山原始林を未来へつなぐ会」の事務局を務めつつ、奈良教育大学ESD・SDGsセンターの研究員として、春日山原始林をフィールドとしたESDの実践に関わるほか、個人でもガイド事業に取り組んでいます。
ここでは、春日山原始林を次世代へつないでいく取り組みの一端として2025年に新たにスタートさせた春日山を未来につなぐ活動「みんなの春日山ラボ」の取り組みから、障がいに関わらず山に触れる体験「みんなの春日山」を紹介します。
負の遺産を活かす
「原始林」の名が付く春日山ですが、実は自動車道があります。昭和初期に周遊自動車道が整備され、現在でもその一部が有料道路となっています。道路開発については、整備当初も反対運動があり、その後も一部が自然保護運動により通行止めになるなど、賛否については、さまざまな考えがありますが、個人的には道路の開発による森林生態系への影響は現在までも尾を引いているのではないかと感じています。関わり始めた頃は、この道を通行止めにすべきとも考えていましたが、一方で、自動車で訪れることのできる1000年の森と考えると、誰もが訪れることのできる場所であるということにも気がつきました。

奈良親子レスパイトハウスとの連携
奈良親子レスパイトハウスは、在宅医療を受けておられる難病の子どもとその家族に東大寺の境内でいつもと違う時間を過ごすことで一緒にレスパイト(休息)してもらう取り組みです。一般的なレスパイトは一時的に介護を肩代わりする形ですが、こちらでは、子どもと家族が共に休息し、親であること、家族であることの喜びを実感する機会を提供することを「親子レスパイト」として提唱されています。
とてもユニークなのは、関わるスタッフや協力者は専門職としてではなく、互いに「善き友」として出会えることを期待しているという点。取り組みを通じて、新たな縁を結ぶこと自体がこの取り組みの目的の一つとしているそうです。
これまでの活動の中で、東大寺大仏殿や二月堂、若草山山頂などに訪れることはありましたが、春日山原始林については、緊急時の対応、気温の課題、そして何より「森をどのように楽しむことができるか」がわからなかったため、訪れることがなかったそう。
2024年にこのプロジェクトの発起メンバーの提案から交流が生まれ、具体的に春日山原始林でレスパイトをする企画が立ち上がりました。
紅葉の春日山をみんなで楽しむ
実施日となる11月30日(日)は、秋晴れの美しい1日となりました。春日山原始林は紅葉のピーク。若草山山頂の駐車場で参加者と合流。今回の参加者は、当事者の方とそのご家族3名と、主治医の先生や看護師の方々の10名。運営側は、東大寺レスパイトハウスのスタッフ(ここには東大寺の僧侶の方も含まれている)ボランティアの3名と私たち3名(運営サポート+カメラマン)です。
冒頭に駐車場から少し歩いた場所の紅葉を見るために移動します。車椅子を中心にみんなでワイワイと歩き、春日山の常緑広葉樹の間に指すイロハモミジの紅葉を見てもらいながら、春日山原始林という森について簡単に説明し、森の空気や、音、手触りなどを楽しんでいただきたいとお伝えしました。


再び車へ戻り、複数の車両で春日奥山道路を移動。道路の奥にある「世界遺産春日山原始林」と書かれた石碑のある休憩所近くに車を停めて、ティータイムとしました。周辺の葉っぱや木の実をあつめて、特徴の解説をしたあとにルーペを使ってそれぞれ観察を楽しみました。



葉っぱの匂いを嗅いでみる(写真:前川俊介)
その後、ほんのちょっとだけ森を散策。100mほど先の杉の大木まで移動し、樹齢200年程度のスギに触れていただいたり、周辺の音に耳を澄ましてみたり。ささやかな時間ではありましたが、森を感じて楽しんでいただく時間となりました。


最後は春日奥山道路から舗装路となっている高円山ドライブウェイへ。日当たりの良い展望所で柿の葉寿司をいただきながら、ご挨拶して終了・現地解散の予定でしたが、東大寺境内地にあるレスパイトハウスまで移動し、お見送りまでさせていただきました。

実施条件を整えることの難しさ
当初は、2025年の5月に実施を予定していました。しかし、実施直前に参加者の方の体調が万全ではない状況となり中止に。親子レスパイトの活動は、医療サービスや福祉サービスを保証するものではないため、プログラム実施にあたっては、慎重にならざるを得ないことを実感しました。他にも、重度障がいをお持ちの方のご家族らから案内の依頼をいただき、親子レスパイトの方にも相談したところ、運営体制や、万が一のリスクに対する考え方をアドバイスいただき、お断りせざるを得ないこともありました。
「一緒に楽しむ」ためには、そのための条件を整えることが必要。参加するみんなが一緒に楽しむための条件整理をシビアにすることで、その場の時間を安心して楽しめるようになるのだと感じました。
春の実施が中止となったあと、再度、親子レスパイトハウス側と相談し、これまでこうした「はじめて」の取り組みに参加いただいている方が関心を持ってくださいました。
実施時期は紅葉の美しい11月末。ネックは気温でした。11月末の春日山の気温は10度前後。寒い季節は温度管理が重要となり主治医の方もその点を気に掛けられていましたが、今回は特別にカスタムしてくれた寝袋を提供いただき、実施の話を進めることができました。
参加者も運営者も共に楽しむ
私たちが提供したプログラムは、ささやかなものです。事業として捉えるとそれが適切なプログラムであったのか、正直よくわかりません。ただ、互いに「善き友」として参加された皆さんと出会えて、春日山原始林を楽しんでいただけたこと、短いながらも同じ時間を過ごせたことの喜びがとても印象に残る機会でした。
ケアする側とケアされる側という関係を越えて、皆でただ目の前の自然を愉しむという場をまた創りたい。春日山原始林を誰もが楽しめる「みんなの森」となるようにこうした取り組みを継続していきたい。そう思いました。

日本環境教育フォーラムは、東京マラソン財団チャリティ RUN with HEARTの寄付先団体です。本事業は、寄付先事業として実施いたしました。
東京マラソン財団チャリティ RUN with HEART公式ウェブサイト
文責:杉山 拓次(みんなの春日山プロジェクト)
