10月25日(土)〜26日(日)、森に癒されながらサステナブルな暮らしを考える1泊2日のプログラムを山梨県・清里にて開催しました。
ストレスの多い日々を過ごす大人が自然に身をゆだね、心と体を整えながら、“自然と共にある暮らし” を改めて見つめ直す時間となりました。
舞台は、八ヶ岳南麓に広がる清里高原。森林、牧草地、林縁部といった多様な環境が連続し、自然の豊かさを全身で感じられる場所です。
キープ協会の案内のもと、関東圏を中心に集まった17名の参加者が森の中で癒しと学びの時間を過ごしました。
森との対話で、心がほぐれていく
集合後すぐに、さっそく森の中へ!
あいにくの雨模様でしたが、湿度や雨音、しっとりとした土の感触など、雨の日ならではの“森の気配”を味わいました。
「目をつむって、ほおで風を感じましょう。風はどちらから吹いていますか?」という問いにはじまり、五感をひらきながら森の中を歩きました。

道中では、もみの葉の香りを嗅いだり、オナガのさえずりに耳を澄ませたり…秋ならではの”森の恵み”もいただきました。
さるなしの実を食べてみると…「キウイみたいで美味しい」と満場一致の感想が!
はじめは少し緊張感のあった表情が少しずつほぐれて、自然な笑顔がこぼれます。


森の仕組みに触れると、見えてくるもの
さらに歩みを進めていくと、足元にはふかふかのウッドチップが敷かれていました。
ウッドチップは木の根を守り、人が歩いても地面を踏み固めないため、土の中の生きものにもやさしいという大切な役割を担っています。

途中で出会った枯れ木も、実は森にとって欠かせない存在。
空を見上げると、ここだけぽかんと穴が開いています。この木がもともと生い茂っていた場所が開けているんです。
このように枯れ木は、光を若木に届け、虫が住み、キノコが生えて、多様な命を育む循環の要でもあります。

全身で森を感じるアクティビティ
目隠しウォークでは、一列に並んで一歩一歩、感触を確かめながら歩いてみました。
足の裏から、微妙に違う土のやわらかさや、葉っぱの感触を感じ取ります。

さらに、ばらばらの場所から取った土のにおいを比べる「土ソムリエ体験」も実施。
「こっちは爽やかな感じ」
「さっきより芳醇な気がする!」
場所によって土の香りがこんなに違うのか、と驚く声があがりました。

その後は、誰でもピカソに!?枝や落ち葉を使って、自然物でアート制作をしました。
全員が無言で没頭して制作すること数分…十人十色の作品が完成しました!



そして、好きな場所にシートを敷いて寝転ぶ時間も。
風の音、枝からぽたぽた垂れる雨のしずく、背中から感じる土の柔らかさと冷たさ…
寝転がって空を見上げると、「雨の日だからこそ出会えた森の表情」がありました。

最後は焚き火を囲みながら、この日の朝に摘まれた「ナギナタコウジュ」のお茶でほっと一息。対話の時間を過ごしました。
火のゆらぎを眺めながらおしゃべりしていると、今回参加した理由、森で感じたこと、日常の忙しさのこと…一人ひとりの言葉が静かにほどけていきます。
街の喧騒からすこし離れて、心と身体のリズムを自然のリズムに合わせていく、そんな豊かな時間でした。

森の持つ力とは?レンジャーによる解説
森で感じたことを“知識”としても深められるよう、レンジャーによるレクチャーも行いました。
今回訪れた清里の森は、草原と隣り合う「林縁部」と呼ばれる環境が特徴。
日当たりの良さから、あけびやさるなしといった木の実が実り、”森のレストラン”の役割も担っています。
環境が多様ということは、多様な生きものも暮らしているということです。ヤマネ・フクロウ・キジ・キツネなど、様々な生きものが暮らしていることを知りました。

「森にいくと、なぜ心地いいの?何がそう感じさせるの?」
先ほど森で感じた癒しやリフレッシュの感覚は、実は科学的にも説明されています。
- 日光でセロトニンが分泌される
- 焚き火の不規則なリズムにリラックス効果がある
- CDでは録音できない音「ハイパーソニックサウンド」が脳を活性化する
など… “森がくれる力” があることを学びました。

森を元気にする仕組み「ペレットボイラー発電」を見学
宿泊先の清泉寮では、木材の端材から作られた「木質ペレット」を使ったカーボンニュートラルな発電を実施しています。
今回は特別に発電施設を見学させていただきました。


清泉寮の暖房空調やお風呂のお湯は、この発電の熱を使用して温められています。
ペレットの使用量は年間303トン。灯油に頼らないことで、406,607kgのCO₂を削減しています。なんと、杉の木29,043本が1年間に吸収するCO₂の量に相当する効果を生み出しているんです!


さらに、こういった環境にやさしい取り組みをただ知るだけでなく、裏側にある仕組みにも想像力を膨らませることが大切だというお話もありました。
例えば、もし原料のペレットが地産地消されていない場合には、運搬に化石燃料が使われることもありますよね。
取り組みの概要だけでなく、その背景にある社会の構造にも目を向けていくことで、もっと地球にやさしい行動が取れると考えるきっかけになりました。
夜には、発電の熱を利用したあったかいお風呂につかり、地のものをたっぷり使った清泉寮のお食事に感動!
また、暖炉を焚いて、参加者同士で懇親の時間を過ごして1日目が終了しました。

早起きして朝の森を満喫!
真っ白な霧に囲まれたあいにくの天気でしたが、朝さんぽを楽しみました。
落ち葉をつけて傘をデコレーションしたり、「ヤマブドウ」で森の恵みをいただいて、2日目がスタート!



生きものと人との共生 — ヤマネミュージアムツアー
清里ならではの生きもの「ヤマネ」について学べるヤマネミュージアムへ。
森と人が共に生きるための仕組みとして「アニマルパスウェイ」が紹介されました。
アニマルパスウェイとは、道路によって分断された森林などを動物が安全に行き来できるよう、吊り橋のような人工的な通路を架けた道です。
生きものの暮らしを守りながら、わたしたち人間も過ごしやすい方法を探った仕組みがあることを知りました。


レンジャー体験で「森を守る仲間」に
その後は、実際にレンジャーが行っている森づくりの作業のお手伝い!
2人1組でウッドチップを林道まで運んでいきます。



今回作業したのは全長15メートルほどの林道。
雨に濡れてしっとり黒々とした地面に、鮮やかな新しいチップが敷かれていきます。
作業が進むほどに参加者同士の距離が縮まり、昨日まで初対面だったのが嘘のように、自然な一体感が生まれていました。

作業完了後の林道がこちら。美しい!

新しいウッドチップの上を歩いた時の表情は、「わたしたちの手でつくったんだ」という達成感に溢れていました。
森で癒された1日目とはまた違う、森に関わるよろこびに満ちた時間となりました。


2日間のふりかえりと、参加者の声
「えんたくん」を使って2日間をふりかえり、印象的な場面をキーワードやイラストで表しました。
こんな声がありました:
- 1日目は初めての場所でドキドキ。2日目は知っている森に帰る「安心感」があった。
- 昨日は「お客さん」だった。今日は整備に関わってより身近に、あの道が自分のことのように感じた。手を入れて維持することの大変さ、大切さを感じた。
- 自然に対する見方、向き合い方が変わった気がする。
- 知ることで親しみがわく、関わることでまた会いに来たくなる。
- 森から離れると心は固くなる。


最後には、もみの葉を使った”森の香り”のおみやげ、エアフレッシュづくりも。
ボトルにもみの葉を入れると約1カ月で香りが定着し、日常の暮らしにも森の気配を持ち帰ることができます。


森に癒され、森を知り、森を守る体験で、自然と人、人と人がゆるやかにつながる時間となりました。
森が与えてくれたエネルギーを、これからの暮らしや身近な人との関係へ、そっと広げていってもらえたら嬉しいです。

※日本環境教育フォーラムは、東京マラソン財団チャリティ RUN with HEARTの寄付先団体です。本事業は、寄付先事業として実施いたしました。
RUN with HEART公式ウェブサイト
文責:東村ほのか(自主・企業グループ)
