
夏といえば、海水浴!海辺に行く方、砂浜で遊んだ経験のある方も多いのではと思います。
しかし、障がいや高齢等の要因で体の自由が思うようにきかず、海を楽しむことを諦めてしまっている方もいます。
そんな人たちも気軽に海に入って楽しめる、ユニバーサルデザインの自然体験の場があるのをご存知でしょうか。障がいのある・なしに関わらず、家族や友達とみんなで、安心して海を楽しめる「ユニバーサルビーチプロジェクト」が鹿児島県の重富海岸で実施されています。

なんとこの重富海岸、霧島錦江湾国立公園内にあるんです!
日本で唯一の国立公園内にあるユニバーサルビーチは、海岸線沿いに松原が広がり、厳しい日差しから私たちを守ってくれました。火山の噴火によってつくられた地形で、遠浅の砂浜というのもユニバーサルビーチにはもってこいです。大きく波が引いてできる干潟には多種多様な生きものが生息し、冬にはクロツラヘラサギが渡ってくるそうです。

重富ユニバーサルビーチプロジェクトとは?
重富ユニバーサルビーチプロジェクトは、NPO法人くすの木自然館・浜本麦さんと石神愛梨さんの2人を中心に実施していて、今年(2025年)で4年目を迎えます。
くすの木自然館がユニバーサルビーチプロジェクトを開始したのは、ご自身も手に障がいをもつ石神さんが、義足の娘と一緒に海で遊びたい、と話したことがきっかけです。しかしノウハウも何も持っていなかったので、日本でユニバーサルビーチを始めた須磨ユニバーサルビーチプロジェクトに相談し、体験会を実施しました。ところが実際に実施してみると、課題だらけだったのです。
この場所を大切に思ってくれる人を1人でも増やしたい、年齢・性別・障がい・関係なくどんな人でも自然体験ができる仕組みをつくりたい。2人のそんな想いから、重富ユニバーサルビーチプロジェクトは開始となりました。
「障がいがあるからって理由だけで諦める必要はなく、そんな人たちが安心して楽しめる場所をつくりたい」
ユニバーサルビーチプロジェクトは障がいのある方だけのものではなく、どんな人でも一緒に楽しめる場所であることを大切にしています。



イベントとしての「ユニバーサルビーチプロジェクト」に直接参加されなくても、スタッフが毎朝トンボで道を整えているので駐車場からなぎさミュージアムまで車椅子も通れるし、砂浜を移動できる車椅子の貸出も行っています。日頃から車椅子の方にも海岸を楽しんでもらいたいという気持ちが伝わってきますね。
「やってみたい」「楽しみたい」気持ちを、諦めさせない
JEEFが参画したのは8月2日と3日の2日間、5組が参加されました。数年前に脳出血で倒れ麻痺が残ってしまった方、義足の方、車椅子の小学生と中学生、視覚障害の方。様々な事情を抱え、参加を希望してくださった方ばかりでした。
参加者との楽しい時間も、もちろん見どころではありますが…ぜひ紹介したいのが、参加者に安心してもらうための、準備への全力投球です!!
まず、参加者ひとり一人の状態が異なるため、事前にしっかりと聞き取りを行います。それに合わせて、道具やサポーターの人数、着替えの場所などもすべて準備した上で、当日を迎えています。

ユニバーサルビーチでは、水陸両用の車椅子を使用しますが、砂浜でも車椅子が通れるようにするためには、ビーチマットを敷く必要があります。
「敷く」と書くのは2文字ですが、この作業が大仕事なんです。
車椅子に乗った参加者が移動中の振動や傾斜で落ちたりしないよう、まずトンボやスコップを使って念入りに整地をします。その上にマットを敷いて、動かないようペグをしっかり打ちます。ビーチマットはなんと1本40㎏。真夏の早朝、炎天下で潮風を浴びながら汗だくになって作業するのは大変ですが、参加者に安心して海に入って頂くためにはこの準備をきちんと行わなければいけません。これをユニバーサルビーチを実施する日は毎日必ずやるのですから、頭が下がります…。


足元だけではありません。クッションやウレタン棒など、水に浮くアイテムをたくさん用意して、一人ひとり異なる体の状態などに合わせて使い分けています。遠浅の海は安心して沖までどんどん進んでいけるので、車椅子である程度の深さまでいけば、車椅子から降りて浮かび、自由に遊ぶことができます。
車椅子から降りるときのドキドキの表情、浮かんだときの溢れる笑顔と歓声。童心にかえって水鉄砲を打ち合ったり、仰向けに浮かんで太陽の光を浴びながら青空をただただ眺めていたり。


たまに噴煙のあがる桜島をはじめとした錦江湾の山並み、広がる海岸線、浜辺に広がる松原を背景に、海での楽しいひと時。参加者は波を感じて体を動かしたり、海水のしょっぱさに顔をしかめたり、水の冷たさに声を上げたりしながら海を全身で感じているようでした。「楽しかった、来年も来たい」と嬉しさをかみしめながら涙を流されていたのがとても印象に残っています。
サポーターは参加者が安心して楽しめるよう様々なフォローを行うことはもちろん、一緒にプカプカ海に浮いたり、水鉄砲で打ち合ったり、海にいる間笑顔が絶えませんでした。一緒に参加者と遊びたいという気持ちを持った方ばかりです。
姶良市内・市外からさまざまな方が集まっていて、中には医療機器の技術職の方や、高齢者や障がいのある方のツアーを企画される方など、福祉の面からプロジェクトを知り、賛同して参加している方もいました。


さて参加者をお見送りした後は、片付けです。1日に複数回やる日もありますが、毎回必ず車椅子と使った道具はしっかりと水洗いし、日光で乾燥させます。1日の終わりには、朝に苦労して敷いたビーチマットも剥がし、これも洗って干しておきます。

準備と片付けは、正直なところものすごく大変でした。それだけ身体に障がいのある人やその家族が海遊びを楽しむには、乗り越えなければいけない困難が複数あり、そうでない私たちが思っているよりそのハードルは高いということを知りました。
海で遊んだことがない、浜辺に行ったことがない方もいますし、後天性の方は、以前のように海には行けないと諦めてしまった方もいます。そんな人たちの選択肢に「海で遊ぶ」をつくる、このユニバーサルビーチプロジェクトの取り組みの尊さを実感するとともに、JEEFとしても引き続き参画していきたいと考えています。

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JEEFは、東京マラソン財団チャリティ RUN with HEARTの寄付先団体です。本事業は、寄付先事業として実施いたしました。JEEFでは「誰ひとり取り残さない環境教育・自然体験」を目指し、日常生活を営む上で困難や課題、心配を抱える子ども・大人に、自然体験や癒しの機会を提供しています。
東京マラソン財団チャリティ RUN with HEART公式ウェブサイト
文責:垂水恵美子(総務部 会員・寄付担当)