ブータン王国ハ地域における地域に根ざした持続可能な観光開発プロジェクト

2011年5月から2014年10月にかけての事業が終了した、ブータン王国ポプジカにおける地域に根ざした持続可能な観光開発プロジェクトに引き続き、2015年から、西部ブータンのハ県で、ポプジカ同様のプロジェクトを実施しています。

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地域に根ざした持続可能な観光開発(CBST)

“地域に根ざした持続可能な観光開発(Community Based Sustainable Tourism: 略称CBST)”は、単に観光名所を見て廻るという、いわゆる“マス・ツーリズム”に代わる新しい概念として、2000年代後半頃から、国際的に広く通用し始めています。観光地の自然資源・文化資源を保護・繁栄させること、そして、その土地に古くから暮らす地域コミュニティが、観光産業による恩恵をきちんと継続的に受けられるような仕組みを作ること、を目的としています。

CBSTの普及により、美しい自然資源・文化資源を保有する地域の乱開発を防ぐと共に、地域コミュニティが、それらの資源を活かしながら、次の世代へと受け継いでいくことができるのです。

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ブータンのユニークな観光政策と課題

ブータン王国は、“国民総幸福量(Gross National Happiness: GNH)”の向上を国策として掲げる、ユニークなヒマラヤの小国として知られています。①持続可能な社会経済発展、②伝統文化の保護と活性化、③自然環境の保護、④良い統治、がGNHの4本柱です。「ハイバリュー、ローインパクト」と表される観光政策も、GNHの概念に則って定められており、「お客様には質の高い旅行を提供し、伝統文化や環境への負の影響は最小限に抑える」と謳われています。これは、観光産業の発展を急ぎすぎて、自然や伝統文化の喪失、地域コミュニティの崩壊、貧富の格差の拡大などの問題が生じてしまった近隣のアジア諸国の失策から学んだものです。

 具体的には、ひとり1泊あたりの「公定料金」が設定され、三ツ星ホテル/農家/キャンプの宿泊、英語ガイド、車、食事、そして内国税(ブータン全土の医療・教育の普及、貧困削減等に充てられる)がすべてパッケージ化されています。ツーリストは必ずブータンの旅行会社を通してこのパッケージを購入する必要があります。この仕組みにより、現地にほとんど収益をもたらさないバックパッカーのようなツーリストの流入を抑制すると共に、旅行会社やガイド、ドライバーといった雇用を創出しているのです。

 しかしながら、この「公定料金」システムがもたらす課題も山積しています。観光産業が政府に守られているため、競争が生じづらく、単に有名な寺院を巡ったり、トレッキングをしたりと、ツアー商品のバラエティに欠けるのです。また、観光業による収益を得ているのは、主に政府と首都周辺の旅行会社。“地域発”の観光素材開発といった取り組みはおろか、観光産業による恩恵を、地域コミュニティがなかなか受けられていない状況にあるのです。

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プロジェクト概要

そこで、「地域に根ざした観光開発を!」と立ち上がったのが、ブータンで最も古いNGOでもある、王立自然保護協会(RSPN)。もともとポプジカ谷のオグロヅル保護活動からスタートしたRSPNは、観光による乱開発が迫るポプジカ谷で、オグロヅルと、地域に暮らす人々の伝統的な生活を守るべく、JEEF/JICAの協力を得て、CBST事業に着手しました。そして、ポプジカ谷での事業の成功を受け、ブータン全土にさらにCBST事業を拡大すべく、ハでの本プロジェクトを新たに開始しました。

本プロジェクトの具体的な事業項目は、次の通りになります。
  1. 農家体験(ホームステイ)の開発
  2. ローカルガイドの育成
  3. 地元の特産物を活用したお土産の開発
  4. 地域における観光素材の開発
  5. 地元の人々と観光客の交流の場となるコミュニティーセンター(日本でいう「道の駅」のような施設)の開発

またハにおいてCBSTの仕組みを構築するのみならず、開発が遅れている東部を中心に、ブータン全土にCBSTの概念を広めることも、今回の事業の大きな目標のひとつとなっています。東部から各県の担当者を招いてポプジカやハの事例を紹介し、最終的には自身でCBSTの計画書を作成してもらうのが狙いです。

また、ポプジカとハにおいて、CBST開発により環境負荷が不用意に高まっていないかをチェックする「キャリング・キャパシティ調査」を実施することも、今回新たな試みとして取り入れています。

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事業名 ブータン王国ハ地域における地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト
実施国・対象地域 ブータン王国 ハ県 カツォ郡・ブジ郡・エス郡
実施期間 2015年1月~2018年1月
カウンターパート機関 王立自然保護協会(Royal Society for Protection of Nature: RSPN
事業形態 JICA草の根技術協力事業